2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年4月10日

米大リーグ機構(MLB)とバイデン発言

 ジョージア州でビジネスを展開するデルタ航空、コカ・コーラ、ホーム・デポなど約200社が「投票抑制法」を、「非民主主義でアメリカらしくない」として批判しました。これらの大企業は、消費者から人種差別や人権侵害を支持している企業としてレッテルを張られたくないことは確かです。利益、株価及び採用にマイナスの影響を受けるからです。そこで、人権の土台の上に企業活動があるという人権尊重の経営姿勢を示した訳です。

 加えて、米大リーグ機構は7月にジョージア州アトランタで開催予定であったオールスターゲームをコロラド州デンバーに移動すると発表しました。その理由として、「投票への公平なアクセスの必要性」を挙げました。同機構は人権の上にスポーツ活動が存在するというメッセージを発信して、運動競技と人権尊重を結びつけました。

 米大リーグ機構が発表する前に、バイデン大統領はスポーツ専門チャネルESPNとのインタビューの中で、ジョージア州でのオールスターゲームボイコットを支持しました。その上で、同州と他の40州の法案を「人種差別的な法案」と呼んで激しく非難しました。オールスターゲームが同州にもたらす1億ドル(約110億円)の経済効果よりも人権を重視したのです。

 また、バイデン氏は「投票所が午後5時に閉まってしまえば、労働者が投票できない」とも指摘しました。もちろん労働者は同氏の支持基盤です。

 バイデン大統領はジョージア州の選挙法改正は、黒人の投票権を弱めるものとみており、スポーツと人種差別及び人権問題をリンクさせて考えています。「スポーツと政治」あるいはトランプ氏のように「スポーツとビジネス」というものの見方ではなく、「スポーツと人権」というレンズを通じて捉えています。バイデン氏は「人権があってこそ運動競技が成立する」という信念に基づいて発言しているフシがあります。

 ということは、新疆ウイルグ自治区のイスラム教徒の少数派に対して、民族浄化を狙って意図的に危害を加える行為「ジェノサイド」及び、香港での民主主義抑圧が露骨に行われている中国での五輪開催に、バイデン氏が全面的に賛同しているとは到底思えません。

 ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は4月7日記者団に対して、北京冬季五輪共同ボイコットに関して同盟国・友好国と議論していないと語りました。今月16日の日米首脳会談で、バイデン氏は米国が北京冬季五輪をボイコットした場合、日本も同じ行動をとるのか、菅総理に確認する可能性は否定できません。

クアッドとワクチン生産拠点

 日米豪印の国際連携の枠組みであるクアッドは、非公式なものであり軍事同盟ではありません。アントニー・ブリンケン米国務長官は4月5日、世界における新型コロナ感染を収束させるために、米国がリーダーシップをとると宣言しました。その背景には米国におけるワクチン接種のめどが立ったこと、中国のワクチン外交に対する焦りがあること及び、巻き返しを図ることがあります。

 さらにブリンケン氏は演説の中で、クアッドを利用してインドでワクチンの生産量を高めると強調しました。ただし、中国に対抗してインド・太平洋地域にワクチンを分配するには、生産拠点がインド1国のみでは不十分でしょう。もう1つの生産拠点として韓国をクアッドに巻き込み、同国でワクチンの増産をしたいというのが米国の本音です。

 ただ、中国との経済関係を重視している韓国は、クアッドに参加して、自国が中国製ワクチンに対抗するための生産拠点になることに対して消極的です。そこで、米国は韓国以外にもインド・太平洋地域でワクチンを製造できる拠点を探すでしょう。バイデン氏は日米首脳会談で、韓国や他国でワクチン増産を行うために、工場の設備などで日本に融資を求めてくる公算が高いです。


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