今回のテーマは、「バイデンの対中国戦略と日米首脳会談」です。4月16日に首都ワシントンでジョー・バイデン大統領と菅義偉総理による日米首脳会談が対面形式で開催されます。言うまでもなく、首脳会談は対中競争をかなり意識した会談になることは明らかです。
バイデン大統領はこの会談で菅総理に一体何を確認して求めてくるのでしょうか。今後、日米関係に溝が生じるとすれば、何が主たる要因になるのでしょうか。本稿ではバイデン氏の思考様式及び信念に基づいて、首脳会談と日米関係の行方を考察します。
北京五輪とジョージア州「投票抑制法」の関係
米国務省のネッド・プライス報道官は4月6日、ある担当記者からの北京冬季五輪参加に関する質問に対して、「米国と同盟国・友好国との間で協議が進行中である」と回答しました。北京冬季五輪の共同ボイコットについて示唆したのです。
ところが、他の記者が「共同ボイコットを考えているのか、それとも計画しているのか」と問いただすと、プライス報道官は「同盟国・パートナーと対応を議論する分野である」と述べ、前の発言の軌道修正を行いました。バイデン政権は、北京冬季五輪を中国に対する「交渉カード」としてみていることは確かです。
では、バイデン大統領は北京冬季五輪に関してどのようなアプローチをとるのでしょうか。そのバロメーターになるのが、3月25日に成立した南部ジョージア州のいわゆる「投票抑制法」に対する同大統領の発言です。
この法案には、投函するためにコミュニティに設置する郵便投票回収箱(ドロップボックス)の削減や、身元確認の厳格化などが含まれており、ジョージア州の民主党支持者、中でも黒人を標的にしたものであると指摘されています。
民主党支持者は投票日当日、投票所に出向くよりも郵便投票を利用する傾向があるからです。黒人居住区のドロップボックスを削減すれば、民主党支持票を減らすことができます。運転免許証を保持していない黒人がいるので、共和党は投票の際の身元確認を厳しくして、投票率を下げる戦略に出ました。
さらにジョージア州での選挙法改正では、投票をするために列に並んでいる有権者に対する飲食物の提供を禁止しました。ある共和党議員は米メディアからその理由について質問を受けると、「飲食物を配布して票を買収する可能性があるからだ」と回答しました。しかし、こちらも都市部で投票のために長時間並んでいる黒人を標的にして、民主党支持票を減らすという同党の意図が透けて見えます。
それではなぜジョージア州の上下両院で多数派を占める共和党は、このような強硬策に打って出たのでしょうか。20年米大統領選挙でバイデン氏は同州において、ドナルド・トランプ前大統領にわずか0.23ポイント差で勝利を収めました。しかも、今年1月5日に行われた同州における連邦上院選の決戦投票では、民主党が2議席を獲得したからです。
前シカゴ市長でオバマ元政権の大統領首席補佐官を務めたラーム・エマニュエル氏は、「ジョージア州でトランプが勝っていたら、選挙法の改正はなかったはずだ。バイデンが勝利をしたので共和党は改正を行った」と主張しました。同州にけるバイデン氏の勝利が動機づけになり、共和党がバイデン氏を支持する黒人を狙い撃ちにして対策を講じたという認識を示しました。