2024年12月3日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年4月22日

 3月30日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に、同紙コラムニストのジャナン・ガネシュが、「米国はその同盟国を選り好みできない。中国について心配している国はすべてが模範的な自由な国ではない」との論説を書いている。バイデン政権が対中戦略において仲間を増やしたいならば、あまり民主主義の旗を掲げるのは得策ではない、と説いている。

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 このガネシュの論説は今後の米中対立を価値の対立、すなわち民主主義対専制主義の対立として進めていくことについて、いくつかの落とし穴があることを指摘したものであり、それなりに的を射た指摘であると思われる。

 米ソ冷戦はヨーロッパが中心で、西ヨーロッパ諸国には民主主義国が多かったことはその通りである。

 現在は、米中冷戦というか、対立は主としてアジアで繰り広げられることになるが、アジアにおける政治体制は、民主主義が主流であるとは必ずしも言えない。そういう中での民主主義の価値の強調は、米国を中心とする陣営の仲間づくりにマイナスの効果もあることをよく考えておくべきであろう。

 ASEAN(東南アジア諸国連合)では、ベトナム、インドネシア、フィリピンが重要であり、それぞれ中国との関係で困難な問題を抱えている。これらの国に民主主義としての結束を説いても、すぐ賛同が得られるとも思えない。

 そこで、民主主義というよりも、中国の言動が国際法に反していることを厳しく追及していく方が各国の賛同を得られやすいのではないかと考える。例えば、香港の「一国二制度」の侵害は、英中共同声明という条約、国際法を侵害している事案であって、内政干渉の問題ではないことを強調すべきである。また、南シナ海での行動は、島の造成と軍事化は国際海洋法に反するものであることなどを指摘していき、その是正を求める方が民主主義と専制主義との戦いというより、ずっと進めやすいのではないかと考えている。

 まず第1に、中国の対外活動、海洋進出や外国への経済的圧力に注目していくべきであると思う。人権の問題については、南アフリカのアパルトへイト(人種隔離政策)以来、国内問題ではなく、国際関心事項であることが国際社会で確立してきている。この点も指摘していくべきであろう。

 バイデン大統領は、民主主義の有用性を示していくのが重要といっているが、例えばコロナの制圧において、民主主義と権威主義の体制のどちらがより良い成果を上げたかなどで競争すべきではないと考えている。政治権力は正統性を持たなければならないという問題であって、正統性はutility(効用)で測られる問題ではないだろう。

  
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