2024年12月9日(月)

WEDGE REPORT

2021年5月18日

再エネに切り替えれば、負担は減るのか

 再エネの設備は、原発との比較ではゼロも同然なのだろうか。日本では、いま建設工事が行われている原発はないので、英国で工事が進んでいるヒンクリー・ポイントC原発を例に太陽光発電設備との比較を行う。2026年、27年に1基ずつ運転開始予定の同原発の総発電能力は344万kWだ。総投資額(金利込み)は、約3.5兆円と巨額だ。同規模の太陽光発電設備を日本で建設することは土地の問題から難しいが、仮に可能とすれば、総投資額は約7000億円程度になる。ゼロも同然ではないが、投資額は原発の5分の1だ。ただ、設備の利用率と利用期間は大きく異なる。

 原発の設備利用率は80%程度、太陽光は16%程度になる。年間の設備利用率に5倍の差があり、原発の年間発電量240億kWhは、太陽光48億kWhの5倍になる。年間の発電量kWh当たりではどちらの電源も同じ投資額になる。ヒンクリーポイントCの稼働予定期間は60年、太陽光設備は20年なので、操業期間を通して発電量1kWh当たりの投資額を比較すると、原発がかなり安くなる。太陽光発電では燃料は不要だが、原発でもコストの大部分は設備投資額であり、発電量が大きいことから、燃料費、廃炉費用などは1kWh当たりにすると少額になる。

 太陽光、風力の設備コストは習熟曲線に沿いさらに減少する可能性はあるが、いつも発電できない電源のため、バックアップ設備の準備、送電網の強化などFIT賦課金額以外の費用も導入に際しては必要になる。再エネ設備が2030年に向け増加すれば、先進国の中では最低レベルになり、韓国にも抜かれた私たちの給与(図-8)にも、また悪影響がありそうだ。

 小泉元首相が顧問を務める「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」の副会長、中川秀直元自民党幹事長も、インタビューで次のように述べている。「再生可能エネルギー100%になれば、化石燃料を輸入する年間25兆円が不要になり、国富は海外に流出しない。温室効果ガスも出なくなるし、設備投資や地域産業の活性化で日本経済は大発展する」(2021年4月2日付毎日新聞夕刊)。この主張も検証が必要だ。

再エネ100%で国富の流出がなくなる?

 再エネの中では価格競争力がある太陽光発電からの電気で全ての需要を、バックアップ設備なしでも供給可能との仮定を置くと、必要な太陽光発電設備は、約7.5億kWになる。いま、太陽光発電設備供給の80%以上は中国を中心とした海外から行われている。輸入価格を1kW当たり5万円とし、輸入比率80%とすると、必要な資金は30兆円だ。電力業界が消費している燃料費をエネルギー統計と通関統計から概算すると、化石燃料の輸入額が19.3兆円だった2018年の発電用燃料代は約5兆円だった。化石燃料の輸入額は年により変動し、2016年12.1兆円、17年15.8兆円だったので、再エネ導入に伴う設備輸入額を取り戻すには、6から8年はかかりそうだ。加えて、電気料金は上昇するので国民負担も生じる。

 発電部門以外の、運輸部門、産業部門のエネルギーを全て再エネにするためには、電気あるいは水素を利用するしかない。水素を日本で製造するとすれば、最もあり得るのは水の電気分解だが、政府が目標とする2050年2000万トンの水素を製造するには、今の発電設備が倍増される必要がある。再エネ設備を導入すれば、また巨額の設備輸入代金と送電網などの整備が必要になる。仮に海外で石炭あるいは天然ガスから二酸化炭素を捕捉、貯留する装置付きで水素を製造し、輸入するとなれば、化石燃料輸入と同様に輸入代金が必要だ。

 再エネ100%で、国富の海外流出がゼロは理想だが、実現は相当に難しそうだ。再エネ設備、蓄電池のコストは下がるだろうが、習熟曲線はなだらかになりつつあり、限度はある。給与の上昇が必要な日本での温暖化対策については、現世代への影響を最小限にする形で実施しなければ、失われた平成年代を令和においても経験することになる。

  
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