クジラの赤身リエットは、生まれて初めてだったが、カイエンペッパーとの相性もよく、まさに、この店でしか味わえない品だった。赤身のカルパッチョも出た。
もう一つの前菜は房総半島の郷土料理をアレンジした、新鮮な飛び魚を薬味とたたいたなめろうのタルティヌ。これもワインがすすむ。それに瑞々しいムール貝と地蛸のマリネ。
「この辺のムール貝もおいしいですね、ヨーロッパでいただくものとまた違って、ふわふわとして、独特の甘みがあるんです」と小野さん。
この店で出される魚は、定置網漁で有名な鴨川漁港を中心とした地元漁港の新鮮な魚貝。
ここでこそ味わいたいものは、他にもいろいろあるが、たとえば、地元ではイソッピと呼ばれる精進ガニのパスタ。
「エビ網に引っかかって、ほぼ通年とれるんです。そのまま食べるより、すごくいいダシが出るカニなので、パスタには絶品です」。
房総半島といえば伊勢海老
だが、忘れてはいけない。房総半島といえば伊勢海老だ。小ぶりのそれが大皿にいっぱい、軽くソテーにしたものを、すっかり平らげて満足したところで、小野さんが言った。
「伊勢海老漁は6、7月だけが休漁ですが、後はほぼ通年、手に入るんです。伊勢海老に金目、あさりなんかを合わせた土鍋のブイヤベースも人気です。リスエストが多いので、定番化して一人分のポーションも作ろうかと思っているんです」。
サフランの香りのトマトソースベースの鍋、魚介の旨みが沁み込んだしめのパスタがまた、えも言われぬおいしさだと、これを目当てに通う常連さんも多いのだとか。
ううむ、私もまた、ぜひ、これを食べに戻りたいと思う。
季節に応じて、ショウサイフグと菜の花のフリット、地蛸のラグーのスパゲッティーニなど、お酒の進みそうなメニューも多いが、魚だけでは物足りない人にも、南房総のまほろばポークのロース肉のグリエやパテなどがある。鴨川の米を使った落花生ごはんも好評だそうだ。