6月4日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストでCNNの政治アナリストのジョシュ・ロウギンが、米政府の誰もが、中国との戦略的競争が米外交政策の最も重要な問題であることに合意しているようだが、この問題にどう対処すべきかについては合意が無いようである、と述べている。
最近アメリカでは、米中関係について、香港情勢や新疆ウイグル地区での虐待などに関心が高まっている。米政府関係者の間でも、中国との戦略的競争が米外交政策の最も重要な問題であるとのコンセンサスができているようである。
この背景にあるのが、戦略的競争で中国に押されているという危機感である。この危機感の内容としては、1)中国共産党は冷戦以来見られなかったような水準で、米国の知的財産権の盗用と米国におけるスパイ活動を行っている、2)中国の長期的な戦略的競争にいかに対処すべきかの議論はもっと早く始めるべきであった、3)議会は中国の挑戦に直接焦点を当てた法案を通すべきである、といったものがある。
しかし、このような危機感の共有にもかかわらず、この問題にどう対処すべきかについては合意が無いようであるとの指摘がされている。ロウギンの論説はこの点を説明している。その一つが、議会に提案された「米国革新・競争法」であり、本来中国との戦略的競争にいかに対処すべきかが法案の趣旨であるべきところ、実際には半導体対策に焦点が当てられているという。確かに半導体は米国が最近中国に遅れをとっている戦略物資であり、大きな課題ではあるが、専ら半導体対策に重点が置かれ、その背景にある中国との戦略的競争にいかに対処すべきかについて重点が置かれていないのは問題である。米政府が中国との戦略的競争が米外交政策の最も重要な問題であると言っておきながら、それに対する政策を掘り下げて議論していないというのでは、危機感がどれほど深刻なものかを問わざるを得ない。
ただ、中国との戦略的競争にいかに対処すべきであるかについて、米国内が機能不全に陥っているというのはいささか言い過ぎの感じがする。
現に、ロウギンの論説でも触れられた「米国革新・競争法」(通称「エンドレス・フロンティア法案」)は、6月8日、米上院で、賛成68、反対32で可決された。丁度、バイデン大統領が、初の外遊としてG7サミットやNATO首脳会議のため訪欧に出発する前日である。同法案は、安全保障とも密接に関係する次世代通信網や半導体、AI(人工知能)等に、5年間で2500億ドル(約27兆円)という巨額の予算を投じることを可能とするものである。日本を含む同盟諸国との連携強化も視野に入れている。ロウギンは、この法案が下院に行くと骨抜きにされてしまうのではないかと懸念しているようであるが、そういう論説が出ることによって、下院での審議を後押しすることになるかもしれない。いずれにせよ、米国経済を強固なものにすることに反対する議員はいないだろうから、「米国革新・競争法」は、バイデン政権の政策を支える重要な法案として、いずれ成立するだろう。それは、超党派で一致している、中国の挑戦に対抗する手段の一つには成り得よう。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。