今回は、4回目、最後のコロナ対策の費用対効果分析で、テーマは医療体制の拡充、治療法の確立である。新型コロナウイルスに感染しても、確実な治療法があれば何も恐れる必要はない。外出を控えることも都市封鎖することもないのだから、経済への打撃はなくなってしまう。では、効果的に医療体制の拡充と治療法の確立ができたのだろうか。
医療体制の拡充
厚生労働省の補正予算の資料から、医療体制の拡充にあてた費用と治療薬・ワクチンの開発に分けた数字を得るのは困難である。
そこで2020年度補正予算の概要資料から、「1.新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関係費(1)感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発1兆8097億円(うち治療薬・ワクチン開発支援655億円)」(第1次補正)、「1.新型コロナウイルス感染症対策関係費(4)医療提供体制等の強化2兆9892億円(うちワクチン・治療薬の開発等2055億円)」(第2次補正)、「I.新型コロナウイルス感染症の拡大防止策1.医療体制の確保と医療機関等への支援1兆6447億円、2.検査体制の充実、ワクチン接種体制等の整備8204億円」(第3次補正)、予備費使用実績から医療提供体制の充実1兆6690億円、ワクチン確保等7662億円となる。
これらを合計すると医療提供体制の拡充が7兆8467億円、治療薬の開発・ワクチンの開発接種が1兆8576億円である。もちろん、これはかなりラフな数字である。
医療体制の整備はコロナ患者受け入れ病床がどれだけ増加したかで判断できるだろう。治療薬・ワクチンの開発は、患者のうちの死亡者数や重症者数の低下で判断できるだろう。
日本には158万9932の病床があるが(厚生労働省「医療施設動態調査(令和2年5月末概数)」)、うち3万8795床をコロナ用の病床に確保したが、そこに入院しているのは2万4247人にすぎない(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症患者の療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査結果(2021年8月25日0時時点)」)。
医療提供体制の充実にかかった7.8兆円を実際に入院している病床数2万4247で割ると1床あたり3.2億円かかったことになる。7.8兆円のうちにはマスクや防護服などの費用も入っていて、全部が病床確保に使われている訳ではないが、私はかかりすぎの気がする。これだけ使うなら、いくつかの病院を買収して、コロナ専用病院としても良かったのではないか。
どれだけ死者と重症者を減らせたか
医療体制の整備も治療薬の開発・ワクチンの開発・接種も、患者のうちの死亡者数や重症者数の低下で最終的には判断できるだろう。
図1は、1日あたりの感染者数で、死者と入院治療を要するものを割った数字を示している。死者/感染者数も、入院治療を要するもの/感染者数も、医療体制整備が整備され治療法が確立すれば減少するものである。
ここで入院治療を要するものという言葉について説明しておくと、症状が重ければ入院が必要になるが、当然ながら、回復すれば退院でき、退院できなければ死亡することになる。治療法が進歩すれば、患者のうち死亡するものが減少し、入院患者は早く退院でき、入院治療を要するものの人数も減少する。
なお、入院治療を要するものは、何日かの入院が必要になるので、当然、1日あたりの感染者数より大きい数値となる。作図のために、入院治療を要するものの数/感染者数を100で割ったものを示している。
図から20年5月ごろにはこれらの比率が上昇していたが、その後低下した。感染者数に占める死亡者の割合は、5月には40%という恐るべき数字となったが、これは、そもそもPCR検査が不足で感染者数を過少に評価していたこと、新型コロナ感染症の治療法が分からなかったことによるのだろう。
その後、混乱が収まるとともに、この値は1%台に落ち着いた。ただし、21年2月、21年6月と感染者数が増加すると比率が5%程度に高まった。しかしこれは、感染者数が増加するとしばらくして死亡者数も増えるが、その時には緊急事態宣言が発出され、分母の感染者数が減少する結果、比率が高まることを示しているのだろう。