介護という仕事の社会的評価を上げる
2024年には団塊世代が全員75歳以上になり、日本は、国民の3人に1人が65歳以上の世界一の「超高齢者国」になる。
離職率が高い介護職は、現状を維持するだけでも約30万人は不足する見込みだ。
「本当は、20代、30代の人にこの業界にもっと入って欲しいです。そのためには、次元の違う抜本的な待遇改善が必要ですけどね」
介護職の給与は、非正規ではない正社員でさえ全産業平均より月に8万円以上低い。
「あと、介護という仕事の社会的評価も上がらないと、無理でしょうね」
その点では、本書にはヒントがあった。
真山さんは以前、九州地方の「小さな文学賞」を受賞した。小説家志望だったのだ。
そのせいか、ハッとする表現がある。
盗癖がある93歳の女性入居者。話を聞くと、幼い頃養子に出され、そこで過酷な扱いを受けて育ったという。食べ物を隠すのは、その後遺症か。小学校にも満足に通えなかった。
「そんな彼女が初めて自分の名前を書けた時の感想が素晴らしいですね。“自分の中に初めて自分が入った”と思った。その言葉を、真山さんは聞き漏らさなかった?」
「ええ、個人情報保護もあって、こちらから尋ねたり、深入りしたりはできませんが、なぜか私には話してくれるんです」
真山さんは夜勤が多いため、夜中にしばしば入居者から打ち明け話をされるという。
「私は失敗だらけの人生を歩んできたので、どんな話でも一応受け止められます。だから話しやすいのかも知れません。それに多くの話がそれぞれの人生の縮図なので、私も真面目に耳を傾けます」
「介護という仕事の社会的評価を上げるためにも、現場の職員から見た、そのあたりの知られざる側面をぜひまた書いてください」
「そのつもりです(笑)」
高齢者の食事・入浴・排泄などを手がける介護は、これまでどの国でも低く見られてきた。
しかし近年、欧米諸国では、「個人の尊厳」を最重視する介護を、「相互依存社会における民主主義の核心」と見直す傾向にある。
介護を、新たな価値観で捉える時代なのだ。