制度の具体的変更はこれからで、まだ予断を許しませんが、少なくとも、日本の市民団体が主張する「日本は緩い、EUは厳しい」説はもはや、妥当ではありません。
私が調べる限り、日本はゲノム編集食品の商用化に関しては世界最先端。ほかには、アメリカで19年から、ゲノム編集で品種改良された高オレイン酸大豆の栽培、食用油としての販売が始まっている程度です。油は、スーパーマーケットなどの店頭では売られていないとのことで、日本への輸入もありません。しかし、各国で開発が進めばゲノム編集食品が輸入される時代が来るでしょう。輸入の場合も、国への事前相談が求められます。
将来は、遺伝子組換え食品に該当するゲノム編集食品も
ただし、注意点があります。
ここまで説明してきたのは、ゲノム編集技術によりゲノムの特定の場所を切ってあとは自然にお任せのタイプ。一定数の塩基が欠失したり挿入されたり、という自然界や従来の品種改良技術でも起きうる変異で、新しい品種になっているケースです。
しかし、さらに技術革新を進め、特定の場所を切った後に、狙った塩基配列や外来遺伝子を組み込んでゆこうという研究が進んでいます。まだ容易ではないようですが、これが実現すると人為的に自由自在にゲノムを操作する、という時代に近づきます。
日本の規制では、国への事前相談の段階で各省や専門家が判断し、自然には起こりえない塩基配列や外来遺伝子を組み込んでいるものは「遺伝子組換え食品」として別扱いとなります。内閣府食品安全委員会などの評価を受けなければなりません。
ゲノム編集食品は安全か危険か、とマスメディアなどにもよく尋ねられます。現在実用化が研究されているレベルの、切った後は自然にお任せのものなら、従来の品種と同等に安全ですが、さらに開発が進むと……とモゴモゴと説明しようとすると、バチッと遮られ、「安全です」というコメントしか使われません。うーん、つらい。この技術の将来の可能性と、管理制御してゆくことの重要性こそ、一般の人たちに理解しておいてもらいたいのですが。
従って、実は国への事前相談が重要。厚労省や農水省も、その点は十分わかっているようで、事前相談などを定めた通知に従わないと、社名などが公表され事実上の〝社会的制裁〟を課される場合があることも決められています。ゲノム編集食品は、短時間、低コストで品種改良できる重要な技術。将来の食料生産の安定化や増産、気候変動対策などに威力を発揮します。技術発展に応じて、しっかりと管理できるか? 国の規制と消費者による情報チェックの両方が必要です。
(本記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)
リージョナルフィッシュ・2021年9月17日記者会見資料
京都大学広報誌・京大発、「肉厚マダイ」参上 食に革命を起こすゲノム編集と安全
厚労省・ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧
ゲノム編集マダイについて、厚労省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会が確認した結果
農水省・届出されたゲノム編集飼料及び飼料添加物一覧
農水省・ゲノム編集技術の利用により得られた生物の情報提供の手続
文部科学省・ライフサイエンスにおける安全に関する取組
Rothamsted Research News・Genome edited wheat field trial gets go-ahead from UK government
食品安全委員会・欧州委員会(EC)、新ゲノム技術に関する調査研究の結果及び成果を欧州理事会議長に報告する書簡を公表(2/2)
EC study on new genomic techniques
Genetic literacy project・Global gene editing regulation tracker