2022年11月29日(火)

食の安全 常識・非常識

2021年9月30日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 魚もミオスタチン遺伝子を持っていますので、自然の突然変異でも、待っていればミオスタチン遺伝子が機能しなくなった個体が産まれるはずです。でも、何百年、何千年と待つかもしれません。それに、泳ぐたくさんのタイから変異した個体を見つけるのは事実上、不可能です。しかし、ゲノム編集技術により2〜3年で品種にできたのです。

安全性は、三つの角度から検討

 とはいえ、安全性はやっぱり気になりますね。

 ゲノム編集食品は通常、人が食べる場合の食品としての安全性/飼料としての安全性/生物多様性への影響……という三つの角度から検討されます。国が事前相談を受け付け、届出や情報提供で済ませてよいか、安全性審査が必要か判断します。

ゲノム編集技術の最新動向を解説している『ゲノム編集食品が変える食の未来』

 ゲノム編集マダイも、それぞれ検討されました。人が食べる食品としての安全性は、厚生労働省が事前相談を受け付け、薬事・食品衛生審議会内の遺伝子組換え食品等調査会の専門家たちが確認しました。

 ゲノムの特定の場所のDNAを切っただけで、起きた遺伝子変化は最終的に、自然界や従来の品種改良技術でも起こっている範囲内です。そのため、従来食品と同等の安全性とみなされ、届出へ。ゲノム編集で塩基を欠失したことにより、新たなアレルゲンや毒性物質が生じないかなども、調べられています。ゲノムの狙った場所ではないところのDNAが切れて変異する「オフターゲット変異」がないことも確認され、届出資料に掲載されています。

 飼料としての安全性については、農林水産省に届出されています。ゲノム編集マダイは主に食品となりますが、アラなどの不可食部位は魚粉や魚油に加工され飼料や肥料に用いられます。そこで、飼料としての届出も必要なのです。

※各一覧の手続きの詳細は、末尾の参考文献から見ることができます。 写真を拡大

野生生物の生育には影響しないの?

 生物多様性への影響は、飼育することにより野生生物の生育を妨げ駆逐したりしないか、交雑したり毒性物質を産生したりしないかなどを検討します。情報提供書を農水省に提出して説明しなければなりません。

 ゲノム編集マダイの場合、養殖は陸上の水槽で行います。情報提供書によれば、養殖施設の外に逃げ出さないように網を張り、排水設備は網を二重以上にし、卵も流れ出さないようにします。成魚は活き締めにして出荷します。

 水槽での飼育は、魚が壁にぶつかったりけんかなどにより、けがをしたり死んだりするケースが珍しくないのですが、しっかり処分し、生きたままで施設外には出しません。

 ちなみに、魚のゲノム編集開発を進める関係者は一様に、海での養殖については慎重です。農産物は農業が始まった約1万年前から品種の選抜や改良が行われ、野生の種と栽培品種はその性質が大きく異なるようになりました。栽培品種が野生化したり野生種と交雑したりするリスクは小さく、それらを防ぐ管理策もさまざまあります。

 一方、魚の品種改良の歴史は数十年程度。新しい品種を海や湖で養殖し逃げ出した時にどのような影響をもたらすか、予測できない点が多くあります。そのため、関係者のほとんどがゲノム編集による新品種については「まずは陸上養殖で」と考えています。

 ともあれ、リージェントフィッシュの22世紀鯛は国への届出を済ませ、いよいよ消費者に届きます。資料によれば、今後は理解してくれる消費者に生産・加工履歴を情報提供しながら購入してもらうようにするとのこと。QRコードを用い消費者が生産や加工履歴を確認できるようにして、表示とトレーサビリティを確保します。

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