Wedge REPORT

2021年10月7日

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 総額約4億円にもおよぶ、野心的なプロジェクトがいま、広島県で進められている。

 米シリコンバレーでの起業経験を持つ湯崎英彦知事が主導する形で、これまで広島県ではAI、IoT、ビッグデータなど、進化し続けるテックを活用することによって、地域課題の解決に向けた試行錯誤を行うオープンな実証実験の場「ひろしまサンドボックス」を開催してきた。このプロジェクトを一歩前に進める形で、昨年11月にスタートしたのが、アクセラレーションプログラム「D-EGGSプロジェクト」だ。

 アイデア募集、審査、パブリック評価を経て、今年4月に最終30のプロジェクトが採択された(全応募は391件)。ここでは、実証実験のための必要経費を最大1300万円支援すると共に、広島県外企業・組織の場合、広島県での実証実験のために必要な交通費・滞在費・オフィス賃料などに対して最大1000万円の実費を補助するというプロジェクトだ(総額3億9000万円)。

 参加者を県内に限定しないことも特徴で、30件中、広島県内に拠点を置く参加者はたったの3件だ。ただ、プロジェクトに採択以降、拠点を広島県内に移した参加者もいる。とかく、地方行政が行うプロジェクトとなると、域内を中心ということになりがちだが、そうした枠を外したところに、広島県としても発想の転換をしたことがうかがえる。

 シリコンバレーなどが典型的だが、有望なスタートアップが集まる土地には、投資家、メンター(助言者)、アクセラレーター(起業家をサポートし、支援する人材、団体)など、卵をインキュベーション(incubation)=「孵化」させるエコシステムが構築されている。今回の「D-EGGS」は、広島県にこのようなエコシステムを根付かせようとする野心的なプロジェクトなのだ。これは、湯崎知事が考える、磁力の中心を東京から地方(広島)に移すという考え方にも合致するものだ。

 さて、ここでは30件のプロジェクトのうち、海と山に関係する2件を紹介したい。

 まずは、「海」から。海も近いし、山も近い広島県。自然豊かなのだが、問題は「過疎化」と「高齢化」だ。戦後、県内各地に道路や橋が整備されて便利になったが、その反面、「ストロー効果」によって、田舎から都会へ、広島県であれば、広島市など中心地に人が移動した。

 広島県には、人が住む主な島だけで33あるが、その中には橋で本土と繋がっていない完全離島もある。そんな離島において、自律航行技術を使ったオンデマンド型水上交通の実現を目指すのがエイトノット(大阪府堺市)だ。代表の木村裕人さんによれば「日本全国にある離島航路約300のうち3分の1以上が赤字で国や自治体からの補助金で成り立っており、年間約70億円の税金が投入されています」という。

 一方で、赤字だからといって、船による人や物資の輸送手段がなければ、完全離島での暮らしは成り立たない。まさに生命線なのだ。完全離島に対する水上輸送を、人を使わず、かつより低コストで実現しようとしているのが、エイトノットの自律航行技術だ。

実証実験に使用されているエイトノットの自律航行船

 現在、同じく完全離島である大崎上島に所在する広島商船高等専門学校の支援を受けながら、実証実験を行っている。大崎上島のそばには生野島という「二次離島」があり、ここで自律航行型のEV船を使って物資輸送を行うというものだ。①ユースケースの策定②ビジネスモデルの検証③自律航行船の運用という課題に、2023年中の物資輸送サービスの開始、2025年には旅客輸送の実用化を目指して取り組んでいる。エイトノットでは、大崎上島にサテライトオフィスをもうけるなど、地域に溶け込む努力も進めている。

実証実験の様子

 木村さんによれば、この技術が実用化されれば「さまざまな場面で応用も可能」だという。例えば、東京都内には墨田川のような大きな川から、神田川、日本橋川といった小さな川がある。かつては、水運が重要な物流を担っていた。ここにエイトノットの自律航行船を持ってくることができれば、開発が進む湾岸から都心へ船で通期するといったことも可能になるというわけだ。「タクシー配車の船版も可能になると思います」と、木村さん。

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