経済の常識 VS 政策の非常識

2021年10月29日

»著者プロフィール
閉じる

原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 年金保険料を払わなくても良い年間所得を200万円あるいはそれ以上に引き上げることだ。フルタイムの正社員で働いている人は年300万円以上の所得があるだろうから、この人たちは労働時間を減らして夫の保険に入ろうとはしないだろう。

 実際に、コロナ対応で働く看護師には130万円を超えても夫の扶養家族から出なくて良いとした。すべての人にそうすれば良い。これには、夫の給料が高ければ所得の低い人の所得を上げることにならないか、という批判があるかもしれない。しかし、中間層家計の所得を引き上げることになるのだから、それでよいではないか。

 130万円の壁のおかげで労働時間を減らしていた妻もいるのだから、これまでよりも多く働くだろう。給与から税金を取り、増えた所得で消費が増えれば消費税を取れるのだから、財政コストはほとんどないはずである。

所得の底上げも

 もう一つは、最低賃金を引き上げるとともに賃金に補助金を払うことである。最低賃金の引き上げは、所得の低い人の所得を引き上げるものであるが、それは雇用を減らす可能性がある。

 もちろん、本年度のノーベル経済学賞を受賞したデービッド・カード米カルフォルニア大学教授の業績は、最低賃金を引き上げると雇用が増える場合があると示したことである。ただし、いつでもそうなるわけではない。上げすぎれば雇用が得ることもある。

 どれだけなら大丈夫かと言えば、アベノミクスの時代を考えると景気が良い時に3%くらいなら全く問題ないということではなかったか。3%ではつまらないので、最低賃金の引上げ3%プラス賃金の補助金を4%で最低賃金を毎年7%ずつ上げていく。企業にとっての負担は3%しか増えない。

 これによって3年で2割以上所得が上がるので、所得が増えたという実感を得られるだろう。そのためにいくらの財政支出が必要だろうか。

 図は、給与所得者の所得階級と人数を示したものである。図で年間200万円以下の人が最低賃金で働いている人たちだろう。その人数は約1200万人であり、この人々の総所得は約14.4兆円である。

 最低賃金を補助金で毎年4%増やしていくために必要な財政支出は14.4兆円に12%(4%×3年)をかけて1.7兆円にすぎない。これで所得の低い人の年収を3年のうちに2割引き上げることができる。

 もちろん、この人々がより多く働くことになれば1.7兆円の財政支出では足りない。しかし、これは先ほどの130万円の壁と同じで、より多く働けばより多く税・保険料を払うのだから構わない。私はこれほど効果的な財政支出はないと思うのだが。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る