2024年4月20日(土)

都市vs地方 

2021年11月2日

 高齢化率は年齢による人口の区分で計算された指標であり、現実の就業状況を反映しておらず、地域の生産に従事できる人口資源と100%マッチするものではないという問題を持つ。このため、65歳以上でも就業している・就業できる人口が多ければ、単なる総人口数だけではその地域の生産力を判断できない。

 2015年の国勢調査の結果によれば、例えば秋田県大潟村は、高齢化率は30%を超えた超高齢社会であるが、農業を中心とした地域政策によって就業率は75.2%に達している。さらに長野県川上村は、国民健康保険一人当り年間医療費が長野県下最低という住民の健康度もあいまって、就業率79.9%という日本一の水準を実現している。

 以上のように、地域の持続可能性を考えるためには、単なる人口数の多寡ではなく、就業を通じて住民一人ひとりが健康で社会生活を生涯継続できることに注目する必要がある。すなわち、地域内の住民と生産活動の関係に注目する必要がある。

 特に、65歳以上の非生産年齢人口であっても、就業している高齢者が増えていること、逆に生産年齢人口であっても就業していない、出来ていない世代も存在していることを考慮し、地域の持続のための資源を今後どれほど生み出す力を持っているかを吟味する必要がある。

地方の資源活用が持続可能性を高める

 地域における高齢者や他の世代の就業の状況をより細かくとらえて、地域の持続可能性を検討するべきであると述べた。これらは、就労=市場による取引によって、地域の必要な資源を確保していこうとする考えである。しかし、住民にとって生活を持続的に維持するための資源は、市場で売買されるのが全てではない。

 例えば、育児、介護、家庭内の家事などは、必ずしも100%市場で調達できるとは限らず、都市部よりも地方部のほうが、多世代の同居などにより家庭内で生産できる力が高い可能性を持っている。逆に都市部では、育児や介護を市場で購入せざるを得ないため、待機児童が発生し、少子化に拍車をかけている。しかし、地方部では、多世代が同居していることで、祖父母が子育てを手伝うという例も多くみられる。

地方の都市化にこだわらない

 このように家庭内で家族が創り出すサービスが市場で購入するサービスに匹敵したり、代替したりすることがある。また、家族や世帯を超えて、地域のコミュニティで供給される、助け合い、郷土文化、相互信頼などの資源(社会資本)の存在も、地域の持続可能性に寄与する資源として考慮していかなければならない。

 これらを考えていくと、地方を都市化して持続させることよりも、その地方の資源(高齢者の潜在的労働力、家庭内での生産、社会資本を通じた地域コミュニティからの生産)を十分に活用した持続戦略が考えられるのではないだろうか。

 これまで、地域別住みやすさや幸福度指標などで、都市でなく地方が上位にランキングされることを不思議に感じてきた方もおられるかもしれない。しかし、地方には都市部にない生産資源があることに注目すれば、ランキングを見る目も変わってくるのではないか。

   
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