2024年4月25日(木)

世界の記述

2021年11月23日

 台湾の蔡英文政権が、対外広報でSNSを駆使して成果を上げ、世界に台湾ファンを広げている。最近、台湾との関係強化に熱心な欧州。台湾の呉釗燮(ごしょうしょう)外交部長(外相)が10月29日、ブリュッセルの欧州議会を訪問、台湾支持派の欧州議会議員やベルギーの国会議員と相次ぎ会談した。直ちに各議員がそれぞれ、会談の模様を写真つきでSNSで伝え、台湾支持を表明して中国を大いに怒らせた。

 一方、台湾・中央通信社によれば、この3日前には、アイルランド選出の親中派欧州議員ミック・ウォレス氏がSNSで「台湾は中国の一部で、国連も認めている」などと投稿したところ、「台湾は自らの政府と通貨を持っている」などの非難が殺到。同僚のドイツ選出の欧州議員からも「誤った情報を散布した」との批判が出た。

 台湾誌・天下雑誌によると、最近の欧州の世論は、若者を中心に、経済的な利益よりも、人権や環境を重視する傾向が強まっている。そんな中、台湾が民主主義国であるとの認識が欧州で浸透しており、市民の間に共感が広がっている。蔡政権のSNSを使った対外広報の成果とみてよい。

 台湾メディアのNEWTALKによると、蔡政権がSNSによる広報に本腰を入れ始めたのは2020年1月から。中国の習近平主席が演説で「一国二制度」の受け入れを迫ったところ、蔡総統が即座に拒否。台湾の主張を伝えるイラスト入りのメッセージを中英両語で発信したところ、世界で15万人が「いいね」を押すなど大反響があった。蔡政権も、SNSの威力を目の当たりにした。

 台湾メディアのINSIDEによると、蔡政権のSNS広報の司令塔は、前総統府報道官で現在は与党・民進党副秘書長の林鶴明氏(35歳)。フェイスブックのほか、LINE、ユーチューブ、インスタグラム、ロシア発祥のチャットツール「テレグラム」など、それぞれの特性に合わせて情報の内容や出し方を変えながら、精力的に発信している。今やSNSは、国内向けを含め、政権最強の広報ツールだという。

 蔡政権が、SNSを使った対外広報の中核に位置づけているのは、国際的な影響力が大きいツイッターだ。中国語のほか英語、日本語でも発信しフォロワーは168万人。林氏によれば、動画に英語の字幕をつけてツイッターで発信すると、外国メディアがそれぞれの言語に翻訳し転載してくれる。台湾のプラスイメージが、低コストで世界中に拡散していくそうだ。

 今年の建国記念日にあたる「双十節」(10月10日)では、ツイッターで祝典の映像を英文の解説つきで掲載したところ、クリック数は200万回近く、5000人以上がシェアした。コメント部分は世界各国から祝福の言葉であふれ返り、対外広報として大きな成功を収めた。制作は、ビデオカメラ20~30台、撮影と音声スタッフだけで約100人を動員する空前の規模だった。蔡政権の本気度が窺える。

蔡英文氏の双十節の際のツイート。ツイッターを用いた対外広報は成功を収めている

 一方、中国外務省も、自国では遮断しているツイッターのアカウントを19年に開設。各国駐在の大使ら外交官も発信を行っている。しかし、20年11月には、趙立堅副報道局長がツイッターで、豪州軍人がアフガニスタンの子どもののどに刃物をあてた画像を掲載して、豪政府から謝罪を求められた。

 最近では、中国の駐大阪総領事が国際人権団体をツイッターで「害虫」呼ばわりした。中国への共感を呼ぶどころか、しばしば人の心を逆なでしている。世界にファンを広げる台湾とはあまりに対照的だ。

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InterviEw1 コロナ感染と相似形 生活インフラを脅かすIoT攻撃
吉岡克成(横浜国立大学大学院環境情報研究院・先端科学高等研究院准教授)
coLumn1 企業を守る手段の一つ リスクに備える「サイバー保険」 編集部
Part2 主戦場となるサイバー空間 〝専守防衛〟では日本を守れない
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員)
Part3 モサド元高官からの警告 「脅威インテリジェンス」を持て
ハイム・トメル(元モサド・インテリジェンス部門トップ)
Part4 狙われる海底ケーブル 中国サイバー部隊はこう攻撃する
山崎文明(情報安全保障研究所首席研究員)
Part5 〝国家〟に狙われる日本企業 経営層の意識変革は待ったなし
川口貴久(東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員)
coLumn2 不足するサイバー人材 「総合力」で企業を守れ  編集部
InterviEw2 「公共空間化」するネット空間 国民を守るために必要な機関
中谷 昇(Zホールディングス常務執行役員GCTSO)

   
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いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。


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