2024年4月26日(金)

未来を拓く貧困対策

2021年12月9日

現場からの悲鳴

 20年12月25日、社協の取りまとめを担う全国社会福祉協議会は厚労大臣あて緊急要望書を提出した(「新型コロナ禍による『個人向け緊急小口資金特例貸付』等の償還免除等について(緊急要望)」)。都合のよい説明をする政府関係者や、後手に回る厚労省への不満を隠そうともしない、極めて異例の要望書である。

 1年の据置期間が終了し、返済を開始する時期は目前に迫っているなかで、本特例貸付の実施通知に示された『返済時において、なお所得の減少が続く住民税非課税世帯の返済を免除できること』の内容が、今なお明らかにされていないことに、たいへん憂慮しています。
 この償還免除の規定については、受付開始当初より、政府関係者は「返済免除特約付き緊急小口貸付」等と紹介し、国会審議等においても「実質的な給付措置の性格を有する」などと説明されてきました。また、厚生労働省の通知等で運用上も貸付の迅速化を最大限優先するよう通達があり、制度の本則が大きく緩和され、本来の生活福祉資金とは別制度になったと言っても過言ではありません。このため、本特例貸付は、特別な貸付制度であるとの認識のもとに、社会福祉協議会では、地域住民の命・生活を守る資金として、一刻も早く届けるため、その貸付相談・事務対応に最大限の努力を行ってきたところです。
 つきましては、今なお厳しい生活下にある借受人に対して償還免除が有効に活用されること、また国として本特例貸付のこれまでの運用上の経緯などを十分に踏まえ、下記のとおり償還免除の実施について早期に示すよう、本特例貸付の実施主体である都道府県社協、全社協の総意をもって強く要望します。(以下、略)

 前回の記事では、住民税非課税の場合は特例貸付の返済は免除されると説明した。しかし、厚生省が返済免除の要件をはっきり示したのは、21年3月16日のことである。

 

 申請件数の推移をみると、総合支援資金の再貸付が減少に転じ、特例貸付全体がピークアウトしていった時期となる。つまり、社協職員は最も忙しい時期に「免除要件がどうなるかわからない」という不確実な状況のなかで貸付の是非を判断しなければならなかったのである。なお、前述の中日新聞の報道は21年3月10日のことである。この日付が何を意味するのか、読者に皆さまにも、ぜひお考えいただきたい。

 ルールが示されないまま判断を強いられ、結果責任を問われる。これでは担当者はたまらないだろう。

求められる事後検証

 特例貸付について、なぜ「ばらまき合戦」と評価するのか、必要な人に支援の手は届いているのかという二つの側面から考えてきた。専門用語では、前者を「濫給(らんきゅう)」、後者を「漏給(ろうきゅう)」という。国民からの信頼を得るためには、みだりに救済の対象を広げすぎてはならないし、必要な人を救えないような制度になってもいけない。両者にバランスよく目配りをした運用が求められるのである。

 今回はコロナ禍という緊急事態だったからやむを得ないという人もいるかもしれない。しかし、思い出してほしい。08年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災、日本経済と国民に大きな打撃を与える「未曽有の経済危機・大災害」は、もはや日常の風景になりつつある。コロナ禍が終息したあとに、再び同様の危機が訪れる可能性を否定することは誰にもできないだろう。

 残念ながら、財政支出の大きさに比べ、国民やメディアの注目は決して高いとは言えない。数少ないメディア報道にしても、「濫給」「漏給」いずれかの視点から表面的な事実だけをなぞるものとなっており、その背後にある問題まで踏み込んではいない。コロナ禍の緊張を保ち続けている今だからこそ、改めて特例貸付の現状をきちんと見つめなおし、課題を整理して次の危機に備えることが求められている。

 ここまで、特例貸付の負の側面に注目してきた。読んでいて、うんざりした読者もいるだろう。次回は、まったく異なる視点から、改めて特例貸付の現場の動きを伝えていきたい。

 主役となるのは、とある小さな町の社協マンである。彼女は語る。

――特例貸付は、厚労省の英断である。

   
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