2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2021年12月21日

関連施策を打ち出し、ビジネス拡大

 その合い言葉は「3億人」。冬季五輪開催を機に3億人がウインタースポーツを楽しむようにするとの公約が掲げられた。15年7月の招致決定後、中国政府は次々と関連施策を打ち出している。主要なものだけでも以下のものがあげられる。

・ウインタースポーツ発展計画(2016~25)
国家発展改革委員会、国家体育総局、教育部、国家旅行局が共同で16年11月発表。用具や設備のメーカー、ウインターファッションアパレル企業の育成支援。
・全国ウインタースポーツ会場施設建設計画(16~22)
国家体育総局が16年11月に発表。スキー場やウインターリゾートの建設促進。
・群衆冬季運動推進普及計画
国家体育総局が16年11月に発表。3億人参加のための各種普及プログラムを推進。
・22年北京冬季五輪を契機として大々的にウインタースポーツを発展させることに関する意見
国務院が19年3月に発表。ウインタースポーツ産業の飛躍的発展を支持。
・ウインタースポーツ設備機材産業発展アクション計画(19~22)
国家体育総局、工業情報化部などが19年6月に発表。
・ウインターレジャー発展アクションプラン(21~23)
文化旅行部、国家発展改革委員会、国家体育総局が21年2月に発表。ウインタースポーツ従事者3億人の実現とウインターリゾート発展の推進。

 政府の号令で、果たして国民に新たな趣味を根づかせられるのか。気になるところだが、少なくともビジネスは着々と拡大している。スキー場の数は14年の460カ所から現在では700カ所を突破した。スキー用品メーカーや、ウインタースポーツ用アパレルを手がける企業も続々と誕生している。

 さらに近年では「学校スポーツとしてウインタースポーツ導入」という新たな波も始まりつつある。冬季五輪の理解を含めるために、どんな競技があるのかなどを授業で紹介するという低コストでも可能な施策から、中国南部の学校が北部までスキー合宿をするというお金のかかる取り組みまで、さまざまな手法が推奨されている。

IOCも魅了するビッグマネー

 北京冬季五輪の放つ金の匂いに引きつけられているのは中国企業だけではない。中国は今や世界のスポーツビジネスにとっては大のお得意様である。サッカーや米プロバスケットボール協会(NBA)、それにオリンピックなどの世界的なスポーツ団体やイベントは中国に膨大なファンを持つ。

 その裏側には長い時間をかけてファンを育ててきた歴史がある。将来的に金を取れればいいとのソロバン勘定で、1990年代から中国の放送局に激安で放送権を販売してきたのだ。かくして、中国人は世界の一流スポーツを見ることができ、どっぷりとその魅力につかってきた。そして今、収穫期を迎えているというわけだ。

 しかし、ウインタースポーツはこの中国という巨大市場を攻略できずにほぞをかんできた。中国では見るスポーツとしても、ウインタースポーツの人気はいまいちだ。

 人口が多いのでどんなニッチスポーツにもそれなりのファンはいる。日本の金メダリスト、羽生結弦選手をアイドルのように崇めるファングループがいることも有名だ。だが、他のスポーツと比べればファンの数は微々たるものでしかない。

 もし中国にウインタースポーツが普及し放映権ビジネスが回り出せば、ビジネスに与える影響は大きい。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は2021年1月に習近平国家主席に対して、年始の祝賀のあいさつを送っているが、3億人がウインタースポーツを楽しむという夢が実現しつつあることを祝福し、北京冬季五輪が中国のみならず世界のウインタースポーツを変える転換点になるだろうとまで語っている。


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