話し手・大村大次郎(元国税調査官) 聞き手・編集部(友森敏雄)
「徴税」が腐れば
国も亡ぶ
まず、大村氏が指摘しているのは、古今東西共通していることとして「徴税」が腐れば、国が亡ぶということだ。日本で初めて中央集権国家を設立した大和朝廷。大化の改新後(645年)、班田収授法(田を与え、そこからの収穫の一部を徴税する)が実施され、各地に派遣された国司(くにのつかさ)の監督のもと、郡司(ぐんじ)が徴税にあたった。そして、会計報告を毎年、中央政府に送った。これらの帳簿は厳重に管理され、国司の任期は4年と決められていた。しかし、次第にこの国司が不正に手を染めるようになる。〝学問の神様〟で知られる菅原道真は、これを改革しようとして逆襲され、大宰府に流された。
国司が〝おいしい〟仕事になったことで門閥化する。これで権勢をふるったのが、かの藤原道長だ。道長に皆が賄賂を贈って国司にしてもらおうとした結果、集まるべき税金が国家に入らず、朝廷は衰退した。
同じことは、古代エジプトでも起きている。「書記」と呼ばれる徴税役人が徴税を行っていたが、次第に腐敗した。古代ローマでも、征服地からの徴税がローマ帝国の財政を支えたが、国に代わって徴税を行う「徴税請負人」が腐敗していった。徴税請負人は、先に5年分の徴税を国に支払い、請負人になる権利を買う。請負人は利幅を増やすために征服地で苛烈な徴税を行った。そのあくどさは、『新約聖書』の中にも記されている。大村氏は言う。
「門閥主義、世襲などは、人類にとって、永遠のテーマだ。富む人、権力を持つ人は必ず世襲に向かおうとする。良い制度、システムを作ったとしても、時間が経つと、チェック機能が働かなくなり、腐敗が進む。
今の日本でも、世襲の国会議員が増え、資産価値の大きい会社ほど老舗企業であることが多い。長寿企業が多いことは良い点でもあるが、同じ企業が経済の中心に居座り続けているとGAFAのような新興企業が生まれてくることを阻害することになる。
一方で、GAFAのようなグローバル企業はタックスヘイブンに資産を移すなどして、税逃れをしている。富の再分配が行われないということであり、結果的に国の衰退につながる」