そしてロシア参謀本部情報総局(GRU)がサイバー空間上での偽情報工作とサイバー攻撃を開始、混乱を演出している間に、ロシアはウクライナ領であったクリミア半島をまんまと編入したのである。これは従来の軍事力に頼るやり方ではなく、外交と積極工作を組み合わせて領土を制圧するという離れ業であり、世界中から「ハイブリッド(混合)戦争」として注目されることになった。
盗聴やハッキングによって情報を抜き取り、それをネット上に晒すというやり方は、16年の米国大統領選挙においても繰り返されることになる。この選挙中、ロシアの情報機関とつながりを持つと見られるハッカー部隊が、米民主党のサーバーに侵入し、当時大統領候補であったヒラリー・クリントン氏の選挙対策責任者の電子メールを大量に入手して、これをネット上で公開することになる。
このとき、クリントン候補に不利な情報が拡散され、さらにそれらを基にした多くの偽情報が出回ったことで、大統領選挙の行方に影響を与えたものとみられる。その実行部隊となったのは、インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)という民間企業であるが、裏ではロシアの情報機関とのつながりが噂されている。
西側を混乱させる
圧倒的優位な点
その後もロシアの情報機関は、偽情報工作によって民主主義国の選挙に揺さぶりをかけ続けている。その関与が噂されるものは、17年のフランス大統領選挙、20年の米国大統領選挙、21年のドイツ連邦議会選挙など、枚挙に暇がない。幸いなことに先日のわが国の衆議院選挙においてはロシアの介入は確認されていないが、今後も大丈夫とは限らない。
こうしてサイバー空間においても、積極工作はロシアのお家芸となった。この工作は、ロシアにとって圧倒的に優位な戦い方である。なぜなら民主主義国においては、サイバー空間で偽情報を拡散させることを行政や法律によって規制することは困難であり、さらに一度拡散してしまった情報を消去することは不可能だからだ。
他方、ロシアにおいては、自国に不利な情報を国内で検閲することが可能であり、フェイクニュースの拡散も違法となっているため、欧米による対露偽情報工作はあまり効果がないといえる。
21年4月、EUの公式外交機関である欧州対外行動庁(EEAS)は、ロシアと中国のメディアが西側諸国の新型コロナウイルスのワクチンに対する不信感を広めるために組織的に偽情報を流布していると警告を発し、その目的がワクチン外交に競り勝つためだとしている。わが国でも一時期、ワクチンをめぐるさまざまな噂が飛び交ったが、その大本はIRAによる偽情報工作なのかもしれない。
■破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
マンガでみる近未来 高騰する物価に安保にも悪影響 財政破綻後の日常とは?
漫画・芳乃ゆうり 編集協力・Whomor Inc. 原案/文・編集部
PART1 現実味増す財政危機 求められる有事のシミュレーション
佐藤主光(一橋大学大学院経済学研究科 教授)
PART2 「脆弱な資本主義」と「異形の社民主義」 日本社会の不幸な融合
Column 飲み会と財政民主主義
藤城 眞(SOMPOホールディングス 顧問)
COLUMN1 お金の歴史から見えてくる人間社会の本質とは?
大村大次郎(元国税調査官)
PART3 平成の財政政策で残された課題 岸田政権はこう向き合え
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)
PART4 〝リアリティー〟なきMMT論 負担の議論から目を背けるな
森信茂樹(東京財団政策研究所 研究主幹)
COLUMN2 小さなことからコツコツと 自治体に学ぶ「歳出入」改革 編集部
PART5 膨らみ続ける社会保障費 前例なき〝再構築〟へ決断のとき
小黒一正(法政大学経済学部 教授)
PART6 今こそ企業の経営力高め日本経済繁栄への突破口を開け
櫻田謙悟(経済同友会 代表幹事・SOMPOホールディングスグループCEO取締役 代表執行役社長)
×
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)