首相は、郷土の先輩であり、自らの派閥「宏池会」の創始者、故池田勇人首相(1960年~64年在任)の「所得倍増計画」を意識しているのかもしれない。所得倍増計画は、60年の日米安保条約改定をめぐって世論が分断され、暗くよどんだ国内の空気を一新するのが目的だった。
最初の東京五輪(64年)に向けて公共事業が増大、戦後の混乱収束による大量消費時代到来を敏感に読み取り、高度成長によって所得を倍増させるという遠大な計画だった。当時、流行語にもなって一世を風靡した「所得倍増」と、岸田首相の言う「新しい資本主義」は比べるべくもないだろう。
近未来の構想示す「デジタル田園都市」
「専売特許」にするなら、むしろデジタル田園都市国家構想が時代にマッチするとは言えまいか。
4・4兆円を投入し、地域が抱える人口減少、高齢化、産業空洞化などを、デジタルの力を活用することで解決するという(2021年12月6日の所信表明演説)。海底ケーブルで日本を周回する「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」、大規模データセンターを建設、光ファイバー、5Gと組み合わせ、日本中どこにいても、自動配送、ドローン宅配、遠隔医療、教育、防災、リモートワーク、スマート農業などの実現を目指す。
東日本大震災復興の際、実現はしなかったものの、都道府県という単位を取り払って推進すべきだという構想を唱える向きがあった。18年9月の北海道胆振東部地震による大規模停電が起きた際には、東北電力から融通を受けてしのいだことがあり、広域行政の重要さが指摘された。
こうした経緯を考えれば、日本国内のどこにいても同じ条件、環境で仕事、生活ができるという近未来の夢を実現するほうが、国民の将来に幅広い選択肢を与えることになるだろう。
「台湾の平和」への具体的な行動は
外交での厄介な問題はいうまでもなく、「中国」、「台湾」だ。
22年2月4日の北京五輪開会式の〝外交ボイコット〟をどうするかが焦点になっていたが、政府は、閣僚派遣を見送ることを決めた。米国、英国、カナダ、豪州など主要国と足並みをそろえたが、中国の反発を考えれば、首相にとっては厳しい判断だったろう。
台湾問題では、日本の具体的な行動が焦点となる。
20年4月、当時の菅首相が訪米してバイデン大統領と会談した際の共同声明に「台湾海峡の平和の重要性を強調する」との一節が盛り込まれた。台湾有事で日本が危機にさらされた場合、日本はどういう行動をとるのか。
「台湾」が日米共同声明に盛り込まれたのは1969年11月の佐藤栄作首相とニクソン大統領(いずれも当時)の会談以来だ。当時の日本の国力を考えれば、日本は〝お題目〟として述べておけばよかったが、日本の存在が飛躍的に増大した今、それは通らない。
集団的自衛権の行使が容認され、重要影響事態、存立危機事態と認定すれば米軍への支援も可能となる。台湾をめぐる情勢が緊迫の度を加えているなかで、日本政府は近い将来、集団的自衛権の行使を念頭に置いた決定を迫られるかもしれない。
一方で、日中国交正常化50年という節目に当たって、日本としては、対中関係を悪化させることは避けたいところだ。