燃料が容易に入手可能なのは石油火力だが、燃料費が高く発電コストが化石燃料の中では最も高く利用率も低い。再エネ設備導入が増えれば、利用率はさらに低下する。
自由化した市場でどの発電設備を作れば、設備の寿命がある数十年間のうちに、コスト競争力があり、高い利用率が実現され利益が出るのか分からない。このため発電設備への投資が細り、設備は廃止されても更新されなくなってくる。
16年の自由化以降、利用率が低く採算の悪い石油火力発電設備の減少が続いているが(図-5)、これを置き換える設備は作られていない。いま日本の電力需要は減少が続いているが、例えば自動車の電化が進み電力需要が増加すれば、天候次第で停電することになる。
自由化がもたらしたものは
電力市場を自由化した国あるいは地域では、将来の電力価格が見通せなくなるため設備への投資がなくなり発電設備の減少に直面することになる。どうすれば設備の新設が行われるのだろうか。
一つの考え方は、発電量の取引を行う卸市場に委ねることだ。需給が逼迫した時に卸価格は大きく高騰する。日本でも昨年1月に起こったことだ。需給の逼迫と価格の高騰が頻繁に起これば、収益が見込めるとして設備の新設に踏み切る事業者が出てくると考えられる。
そう考えた米国テキサス州は卸市場に任せたが、設備の新設は進まず冬季の悪天候下に停電が引き起こされた。投資後数十年の間にどれほどの価格高騰があるかは不透明と考え投資を躊躇する事業者ばかりなのだろう。
卸市場に任せたのでは設備の新設が進まないので、設備新設を促進する制度、つまり設備を持っていれば一定額を支払う制度が考え出された。容量市場と呼ばれる。数年後、電力供給が必要な時に必ず供給することを約束する事業者の設備に入札で決まった価格を支払う。毎年入札を行い数年後に必要な供給設備量を確保する制度だ。
電力市場自由化後、設備の減少に直面した英国が容量市場制度導入を決めた際には、欧州委員会の委員から、「総括原価主義を超える社会主義ではないか」と揶揄されたが、英国あるいは米国の自由化されたペンシルベニア、ニュージャージー、メリーランド州など北東部のPJM市場などでは入札により設備に対する支払い額が決められている。
「市場に任せてはいけないものは教育、医療、電気」
日本でも20年度に制度が導入された。設備への支払額は、電気料金に上乗せされることになる。ただ、容量市場があれば供給力確保は大丈夫とも言えないところがあり、自由化された市場で設備をどのように確保するかは、まだ完全には見通せない。
再エネ導入促進策と自由化が同時期に行われたため、供給は不安定化し自由化のための制度は修正が続いている。ポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大学大学院センター教授は、かつてコラムに「市場に任せてはいけないものは3つ。教育、医療、電気」と書いた。私たちは、悪天候の日には停電の心配をする必要がありそうだ。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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