若い世代にとって生涯収入を考えると、地方の低賃金は地方での居住や移住でネックとなっている。一方、地方の低賃金は高齢者にとって大きな問題にはなりにくいかもしれない。10年ほど先の年金受給を見据えて、就労は自らの将来設計に足りない分を補うという側面があるからだ。
アルバイトの仕事で月収が10万円でも、10年続けることができれば合計収入は1000万円を超える。夫婦2人であればまさに2000万円。地方の年収100万円で生活できるのかという疑問があるかもしれないが、例えば、地方の物価安に加えて、基礎年金の年額80万円弱の上乗せがあれば、生活保護よりもかなり多い金額になるかもしれない。特に、厚生年金分だけでも1.84倍になれば、老後の安心感は相当増すだろう。
元気なアクティブシニアであれば、65歳時の貯蓄不足を就労である程度補填することができる。65歳ですぐにリタイアして生涯にわたって低い公的年金でがまんするよりも、できるだけ就業して年金受給額を増やして生涯にわたって安心するという選択肢もあろう。もちろん、1000万円の貯金をなんとか用意できれば、わざわざ働く必要はないだろうが、74歳までは元気なうちは働けるだけ働いて、その後の数年間で「自分へのごほうび」として1000万円を思いっきり使うのも人生一度きりの大きな楽しみになり得る。
全国各地で見せる高齢者、女性の雇用ニーズ
このように考えると、高齢者にとって就業環境をより重視した老後の住まい方もありえる。一方、地方にとっては、「高齢者」という働き手が増えていくことによって、地域経済が活性化され、まちとしての機能も継続されることとなる。高齢者が増えれば、高齢者向けのサービス業が盛んとなり、若年者向けの雇用も増加する。このように、高齢者の就業環境整備は地方にとってメリットが大きい。
地方も含め全国各地ではすでにさまざまな形の仕事や雇用形態が創出されている。例えば、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(19年)には第1期地方創生の「しごと」関連の成果が記されている。これをもとに筆を進めると、地方創生が進められた15~18年にかけて、仕事を主に担う生産年齢(15~64歳)人口の減少にもかかわらず就業者数が 263 万人も増加した。
この背景には、女性や高齢者の就業増加がある。18 年の女性の生産年齢人口に占める就業者割合は69.6%、高齢者人口に占める就業者割合は24.3%で、15年から女性(15~64 歳)が5ポイント、高齢者が2.6ポイント上昇している。
日本の特徴として長年懸念されてきた女性の「M字カーブ」(出産・育児が多い年齢層で就業率が低下すること)が解消されつつある。また、高齢者においては人口が増加する中で就業率が上昇しており、高齢者の仕事がかなり増加していることがわかる。高齢者の有効求人倍率はコロナ禍前で1倍を超えていることから、企業の高齢者に対するニーズは底堅い。
また、正規・非正規別に14~18 年の雇用者数の変化を見ると、正規雇用は男性67 万人、女性92 万人で、非正規雇用は男性33 万人、女性101 万人増えている。女性を中心に正規雇用だけでなく非正規雇用の増加も少なくない。
さらに、非正規雇用労働者に就いた主な理由を「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答した不本意労働者の割合は、18年で男性20.6%、女性9.3%で、14年から男性が7.3ポイント、女性が4.3ポイント低下している。非正規雇用における不本意割合低下の背景には、就業条件にあまり固執せず、非正規を含めて体力や家計状況に合わせて多様な働き方を選ぶ女性や高齢者の就業者が増えたこともあろう。