実践校が見出した
「教科担任制」の効果とは
例えば、4年3組の学級担任である前出の中本教諭は国語や道徳などの教科は自らのクラスで授業を行うが、担当教科である「理科」については1学年全4クラス分の授業を受け持つ。その代わり、社会など、別の教科担任が存在する教科は学級担任である3組の授業を任せる。これら教科の従来の授業準備、教材研究の時間を省略することができるため負担軽減につながるが、中本教諭は、実際に取り組んでみる中で、別の効果を実感したという。
「これまでの学級担任制では、教材準備をしても、実際に授業で教えるのは自分のクラスで1回切り。翌年も同じ学年を持つとは限らないので、同様の内容の授業をするまでに数年の間が空くことも多かった。
一方、教科担任制では同じ授業を4クラス分繰り返し教える中で児童の反応をみながら、前の授業の反省をすぐに次の授業に生かすことで、授業自体の練度を高めることができている」
また、普段の授業や生徒の様子について、学級担任以外の目が入りにくく、クラスが〝孤立〟しやすいという小学校教育の課題についても、教科担任制の導入が「突破口」となりうる。
同校では学年を越えて、同じ教科を担当する教員同士が「教科研究班」を作り、互いの授業を見合ったり、一緒に教材研究をしたりする試みを始めた。それにより、教員間の意見交換やベテラン教員が持つノウハウの共有も活性化したという。
さらに、同校の永浜幹朗校長は、学級・学年経営の変化について「教科担任制によって他のクラスの教員が授業に入ることで、学級担任が普段気づかないような児童の変化にも気づける場面が増えてきた。児童自身も、教員の指導歴の差や性別などによって、学級担任以外の先生に相談しやすい場合もあるようだ。結果、学年全体で多面的なフォローができるようになり、児童理解を深めることができた」と語る。
行政が、各学校の教科担任制導入を支援する動きも出てきた。東京都目黒区教育委員会では、パンフレット『目黒区立小学校教科担任制』を作成し、21年12月より、地域全22校の小学校への配布を開始した。同パンフレットでは、区が指定した推進校の取り組み事例を紹介するとともに、教科担任制を実践するうえでの要点やロードマップ、推進校教員へのアンケートによる効果検証などが盛り込まれている。
目黒区教育委員会事務局の竹花仁志教育指導課長は「現時点で、教科担任制導入未経験の学校が3割程度ある。年度末は学校行事も重なるため、来年度に向けて、今すぐにでも準備を進める必要があり、各学校の教科担任制推進の後押しをしたい」と、作成の意義を語る。今後、3月までに各学校は同パンフレットを参考に、教科担任制をふまえた教育課程の編成を行う。教育委員会は導入に関する相談を受けるなど、継続したサポートを実施する。
22年度の本格導入まで、残された時間はわずかしかない。「教科担任制」への転換が宙に浮けば、そのしわ寄せは子どもたちが被ることになる。次世代の教育環境を守ることは、立場に関係なく、われわれ大人が果たすべき共通の責務であるはずだ。
日本人は日本語を軽視し過ぎている──。国際化が進む今、育むべきは国語力だ。それこそが激動の時代、日本の立ち位置を確かなものにしていくことにつながる。
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