2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2021年12月11日

(cybrain/gettyimages)

 世界には「ランゲージアーツ」という共通の言語ルールがあることをご存知だろうか? 「読む・聞く・書く・話す」という、いわゆる4技能と呼ばれるが、諸外国では、どう読み、聞けば他者が伝えようとしていることを自分がきちんと理解することができるのか? また、どう書いて、話せば、自分の伝えたいことが他者に伝わるのか? 「技術」として教わるのだ。(参考記事『「察する」から「伝える」へ 言語技術で日本人の存在感を高めよ』)

 TOEICなどの英語検定テストで高得点をとっても、実際に英語で会話するとなると難しいと言われることがあるが、スキルとしての英語の前に、論理構成や、低コンテクスト(日本語のような「言外を察する」ということではなく、全て言語化して相手に伝える)に対応したコミュニケーションを取らなければ、相手に伝わらないのだ。

 日本でしか学校生活を送ったことがない人は、振り返ってみてほしい。国語の授業で、小説の読み方や、小説の書き方を教わったことがあっただろうか? 漢字の書き取りから始まり、問いに対しての答え(正解)を求められることばかりだったと私は記憶している。

『我が子を世界で活躍させたいお母さんだけの教育戦略 小学生から始める世界標準の言語力 (ランゲージアーツ 言語技術 母語教育 母語)』

 今回は、トヨタ自動車出身で、ご息女が中学・高校時代を海外で過ごしたことでランゲージアーツを知った星野雄司さんと、英語講師を長年続けるなかで、英語のスキルではなく日本語での言語力や思考力に問題があるのではないか? と疑問に思い、オンラインスクールを3年前に立ち上げ、ランゲージアーツを日本の小中高生やお母さんたちに指導、『我が子を世界で活躍させたいお母さんだけの教育戦略 小学生から始める世界標準の言語力 (ランゲージアーツ 言語技術 母語教育 母語)』という著作を持つJUNKO先生に対談していただいた。

JUNKO 英国人の夫と共に英語教室を運営していて、私自身も長年英語を教えていました。そんな中で英語ができないというよりは、大人も子どもも母語である日本語でも質問に答えられないのではないかという疑問を持つようになりました。英語を話すことに慣れていなくて恥ずかしいという気持ちも関係しているのかもしれませんが、聞かれていることにまっすぐ答えず、関係ない前置きから入ることが多いなと感じていました。

JUNKO 
ダーウィン・ランゲージアーツスクール代表 2002年から子供向け英語教室を開校。 2008年から10年間、思考力を育てるフランチャイズ教室でインストラクターを務める。2019年4月から仲間と共にダーウィン・ランゲージアーツスクールを開校。現在、全国の小中高生とお母さんたちにランゲージアーツを指導。夫はイギリス人。28歳・26歳・9歳の3人の娘の母。

 簡単な挨拶程度の英語なら覚えられるのですが、会話のキャッチボールが難しい。問い合うことに慣れておらず「あなたはどう思う?」と問われると、もうお手上げです。深い話ができない。少なくとも中高と6年間英語を学んでいるのに、コミュニケーションツールとして使うことができないのは、そもそも日本語でも伝えたいことや自分の考えを持っていないからではないかと思ったのです。

 そんなときに出会ったのが、ランゲージアーツです。世界の国々では、母語での4技能(聞く・話す・読む・書く)をとことん鍛えています。自分の興味・関心に対する問いを立てたり、リサーチしたり、多様な視点から考え、自分の意見を主張できることは、衣・食・住の次に来るくらいの重要なスキルだという認識で教育をしていることがわかったのです。

 ああ、これが日本の教育にないんだな、英語が話せないということにも強く関係しているな、と腑に落ちました。日本の場合は母語に関して、「日本語だからできて当たり前。読み書きができて、おしゃべりもできているのだから、鍛える必要なんてないでしょ?」という考えの方がまだまだ多いのではないでしょうか。

 でも、ランゲージアーツは海外の多くの先進国で70年代に取り入れられ、それが全ての教科の土台となっています。ということは、既に40~50年の差が開いています。

 これ以上は待ったなしだと思った私は、世界の学校教育では当たり前に行われているランゲージアーツのことを周りの人たちに説明していたのですが、なかなか理解してもらえませんでした。そんな中、音声SNS「Club house」で出会ったのが星野さんで、ランゲージアーツという言葉を通して繋がることができました。

星野雄司 1987年トヨタ自動車に入社。主に生産技術本部で技術開発を担当 トヨタモーターヨーロッパ生産技術担当Director トヨタモーターアジアパシフィック生産技術担当副社長を歴任 海外駐在歴10年、訪れた国は45カ国。 現在は株式会社ボクスティクスCTO、VFR株式会社シニアテクニカルアドバイザー 家族は妻と社会人の1男1女

星野 私の娘は中学・高校とベルギーの首都・ブリュッセルのインターナショナルスクールに通い、日本に戻って慶應義塾大学に入学しました。たまたま三森ゆりか先生の授業を受講する機会があり、日本の学生がランゲージアーツを習っていないことを知りました。

 同級生たちが簡単なレポートを書くことに苦労していたり、議論をしても感情的になったりするので不思議に思っていたのですが、ランゲージアーツを教えられてないことを知って、腑に落ちたそうです。

 娘からランゲージアーツのことを聞いて、私の外国人の同僚や部下たちのプレゼンテーションや、交渉が上手だったことに合点がいきました。しかし、ランゲージアーツを日本で調べてみると、つくば言語技術研究所の三森ゆりか先生くらいで、あまり知られていない。そこでどうやって一般の人に知ってもらおうかと長い間思案していたのですが、

 今年に入って流行した「Club house」が使えるかもしれないと思い、コミュニケーション能力が高い(私の推測)関西のお母さんの集まりでランゲージアーツについて紹介しました。そこで問題意識を共有できる方々と出会い、JUNKO先生と出会うきっかけになりました。

 私の経験でも、英語ができても相手には通じていないということはよくありました。日本人のように「感覚」で話しても通じないのです。きちんと、筋道を立てて論理的に話さないと外国人には通じません。

 逆に日本人同士が話していると、言葉数が少ないのに話が伝わっている様子を外国人が見て「エスパーだ」と言われたことがあります(笑)。それくらい、日本人のコミュニケーションが高コンテクスト、察したり、空気を読みながら行われているということです。

編集部 おっしゃる通りで、「いい感じだよね」と言われて、とっさに「そうですね」などと返すことがよくありますが、「実際はよく分かっていない」ということは少なくありません。JUNKO先生がランゲージアーツを知る中で、一番驚いたこと(日本の国語とは一番違うと思われる部分?)は何でしょうか?

JUNKO 小学校からの読書量と書く練習量が日本とは桁違いですね。読んでは書き、書いては読むをとことん繰り返します。これが高校生まで続き、大学入学前には論文が書けるようになります。「よかった」「楽しかった」「うれしかった」という感想で終わる日本の作文と違って、自分の意見を主張し、それをしっかりとした根拠で支えること、その根拠を見つけるために自分で調べること、このサイクルを徹底して身につけます。例えば説得文では、

 母 今日の晩御飯、何が食べたい?

 子 ピザが食べたい

 母 どうしてピザがいいの?

 子 熱々でとろけたチーズが美味しいから

 といった具合です。理由に、相手にとって利点があれば、より説得力が増します。「ピザだとオーブンで焼くだけだから、お母さんの時短にもなるでしょ」。

 さらにはピザを食べたいという根拠に、「ピザだとオーブンで焼くだけだから、お母さんの時短にもなるでしょ。」というような、相手にとっての利点が入っていれば尚更、説得力が増すことも学びます。年齢が上がるにつれ、扱うテーマのスケールが大きくなり、時代にそぐわない校則を変えたいということや、給食は昼休みの前と後ではどちらが良いか、町に大型ショッピングモールが来るのは是か非か、などに変わっていきます。何かの問題に対して自分の意見と強い根拠を述べ、相手の考えや行動を変えてもらうという説得文の基本型が身につくように学んでいます。

 小学校4年生では、しっかりとした根拠を述べ、会社の上司に賃上げ要求をするという説得文を書くこともあるのです。

星野 私も経験しましたが、毎年年初に部下の一人ひとりと、年棒交渉をするのですが、小学生の頃から、その訓練をしているのでは敵いませんね(笑)。娘の学校は国際バカロレア(IB)の指定校で、プログラムの中にCAS(創造性・活動・奉仕の学習)という活動があり、必要活動時間数を取得しないと卒業できない仕組みになっています。高校時代にCASの中で「ボランティアの企画」に取り組んでいました。何をしたら社会貢献になるのかを企画して、それを実行するために資金を募るのです。他者を説得して、資金を集めることができなければ、ボランティアを実行することができません。娘の場合は日本食を自分達で作って販売し資金を得ていました。

編集部 日本だと、ボランティアなんだから「お金を募るなんて」と、批難されてしまいそうですね。で、結局、「お金がかからないことで」、ということになって、「ゴミ拾いでもしようか」なんてことになりそうです。それも悪いことではないですが、スケールの小さいものになってしまいます。事業を企画して資金を募るというのは起業教育にもつながると思います。


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