2024年4月27日(土)

21世紀の安全保障論

2022年2月22日

 最近の近隣各国のミサイル開発状況は、当時よりもさらにエスカレートしていることは間違いなく、この状況を踏まえ、自民党のプロジェクト・チームが政府に提出した「国民を守るための抑止力向上に関する提言」には、「(1)イージス・アショア代替機能の確保、(2)極超音速兵器や無人機のスウォーム飛行等、経空脅威の増大・多様化に対応するため、地上レーダーや対空ミサイルの能力向上等の更なる推進、米国の統合防空ミサイル防衛(IAMD)との連携確保、極超音速兵器などの探知・追尾のため、低軌道衛星コンステレーションや滞空型無人機の活用」などが盛り込まれた。

 イージス・アショアの代替機能について詳細な記述はなかったが、弾道ミサイルを捕捉する現在のシステムではなく、弾道ミサイルよりも低い高度で軌道を変えながら飛翔する極超音速ミサイルを捕捉・追尾するシステムの開発整備を考慮に入れたものと考えられる。

 また、最近では、岸田文雄首相の口からも「敵基地攻撃能力の保持を含めて広範に検討する」という言葉がしばしば出るようになった。自民党はこれまでも敵基地攻撃能力の保有を議論しているが、政府として、国家安全保障会議は、これらの検討を具体化し、「国家安全保障戦略」や「防衛計画の大綱」などを改定していく必要に迫られている。

 22年1月12日付の産経新聞の伝えるところによれば、松野博一官房長官は12日の記者会見で、「極超音速兵器も迎撃可能とされる「レールガン」(電磁砲)をはじめとする最先端技術の導入も含め、防衛力の強化を急ぐ考えを示し、また敵基地攻撃能力の保有を含め、あらゆる選択肢を検討する」と述べたとされている。防衛省は来年度予算案に65億円を計上するなどして、5年後以降の試験運用を目指している。

 レールガンは電磁力で砲弾を射出するため、爆薬で砲弾を飛ばすよりも高速で撃つことができ、連射も可能だ。ロシアや北朝鮮が開発を進める極超音速兵器は音速の5倍(マッハ5)以上とされるが、17年度から始めた防衛省の試作では秒速2000メートル(時速7200km、マッハ約5.8)の高速度を実現した(22年1月10日付産経新聞)。高速で飛来する極超音速兵器の迎撃に道を開くため、ミサイル防衛の切り札として期待されている。 レールガン開発では米海軍が10年以上前から先行していたが、米軍は22会計年度への予算計上を断念し、陸上での実験には成功したものの艦艇搭載型の開発に至らなかった。

 また、22年1月16日付時事通信は、以下のように伝えている。

 「防衛装備庁の実験では、マッハ7に近い秒速2297メートルを記録したという。連射が可能で射程も長い。一方で電気を大量に必要とする。配備段階では艦艇や車両への搭載を想定しており、運用に必要な大容量の電源装置の小型化が課題となる」

必要なのは「わが事」にすることと国際協力喚起

 上述の通り、日本の近隣国においては、北朝鮮のみならず、中国なども含めて、日々核とミサイルの開発が強力に進められており、極超音速ミサイルまで出現して、日本にとっては、大きな脅威となっている。

 「イージス・アショア」が停止決定後、政府や自民党は、そのありようの検討を重ねているが、まだその対応策の内容は見えてきていない。また、北朝鮮の状況は、ニュースとしては日々流されているが、この問題の深刻さが十分国民に伝わり、理解されているとも思えない。北朝鮮のミサイル問題は、核兵器とパッケージのものであり、原爆が小型化されれば、それがミサイルに乗って日本にやってくるということである。

 安全保障問題は、紙の上の計画ができればよいというものでなく、具体的な体制が必要なものである。わが国の国民は、安全保障や軍事には、平和ボケといわれるほど、暢気であり触れたがらない問題もある。しかし、国際社会では、一定の安全保障措置を持たなければ、かえって攻撃の対象となり、交渉の相手にもしてもらえない。

 外交・防衛の問題は、与党と政府が検討していれば良いものではない。野党の政治家・マスコミも含めて、国民全体が「わが事」として、考えなければならないものである。

 また、国際的協力対応も重要である。北朝鮮のミサイル発射が国連安保理決議に違反していることは、明白であるが、米国などが国連安保理緊急会議の召集を要請し、開催されても、毎回中露の反対により一致した声明なども出せていない。中露両国も北朝鮮の核ミサイル開発に全面賛成というわけではないが、両国とも別の問題で米国と強く対立しており、そこへの利点を考えての対応であろう。何とか、根底の問題を早くまとめて、北朝鮮の後ろ盾となっている中露も北朝鮮の核ミサイルの廃絶の方向で動けるような外交努力が必要である。

 そのためには、北朝鮮の核ミサイル開発に反対する国際世論の惹起が必要である。その意味で、国連のグテーレス事務総長が異例の非難声明を発表したことは、有意義であった。今後もこのような国際活動を拡大していくために、その基礎となる日米韓の協調体制を維持することは必須であり、特に来月に予定される韓国の大統領選後、新しい協力体制化の確立に努力が必要である。また、関心の深い日米豪印のQuad(クアッド)各国や西欧諸国のみならず、広く世界中の国々に、理解と協力を求めていく努力を続ける必要がある。

 2月11日、豪メルボルンにおいてクアッドの外相会議が開催され、続いて、12日には、ホノルルで日米韓外相会議を開催して、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対する安全保障面での協力を強化していくことで一致した。今後、その具体策が事務レベルで検討されると思われるが、ぜひ世界に発信できる具体的な提言とそれを実現する各国の行動計画が出来上がることを願っている。

   
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