東京進学の抑制政策に地方活性化の効果はない
地方から大都市への進学を通じた若者の流入に対して、問題であると考えた政府は、18年に「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による 若者の修学及び就業の促進に関する法律」を制定し、その第13条で「特定地域内の大学等の学生の収容定員の抑制」として、東京23区内の大学の学部などの収容定員を増加させてはならないとしている。
東京の大学への進学が地元大学への進学率を大きく損ねているのか。そのことを確認するために、同じ「令和3年度 学校基本調査」(文部科学省)から各都道府県別に都内の大学への進学率と地元大学への進学率の関係をみることとした。
一見すると図4では横軸の東京都に存在する大学への進学率の高い地域ほど地元進学率が低くなっている(少なくとも東京進学率の高い県で地元進学率の高い県はない)ような印象を受ける。しかし、図で赤く囲われた部分に注目すると、また違った答えが見えてくる。
赤く囲った地域は、地元進学率がおおむね3割台以下の地域である。これらの地元進学率の低い地域では、東京進学率の高い地域もあれば低い地域も存在し、明確に両者に負の相関を見出すことができない。
これらのことから、在京の大学の定員数を抑制しても、法が意図する「地域における若者の修学及び就業を促進し、地域の活力の向上及び持続的発展を図る」ことには直結できないと思われる。江戸時代の天保の改革における「人返しの法」のようなことをしても、効果は見込めないのではないか。
このように東京への進学率を抑制しても、地元への進学率が直ちに高まるとも考えられないとすれば、そもそも地元進学を奨励するような政策は、地域にとってどのような役割があるといえるだろうか。
もし、地元への進学率を高めることとその地域の進学率そのものの間に正の相関があれば、地元進学の奨励は若者の高等教育の機会を高め、地元の人的な資本の充実に資するといえるかもしれない。そこで、最後に地元進学率その地域の大学進学率の関係を示したものが図5である。
これを見ると地元への進学率と地域の大学進学率の関係には右上がりのようにも見えるが、明確な正の相関が見受けられない(相関係数=0.35)。したがって、「東京や他県の大学行くな、地元の大学に行け」と若者に禁足令を出すことはあまり意味がないといえる。学生諸君は、大学の立地ではなく大学そのものを選んでいるということである。
アフターコロナの大学の立地政策
20年の新型コロナウイルス流行以降、大学の授業の方法は大きく変わった。基本的にはオンライン、リモート授業が主流となり、大学のキャンパスに学生が足を運ぶことは大きく減少した。極端なケースでは、大学には入学したものの、大学の立地する都市には下宿せずに、ほとんど実家で暮らし、オンラインで学習しているケースもあると聞く。
さらに、海外留学もオンラインで提供され、自宅にいて外国の大学の授業や単位をとれるケースまで出現している。このことは、大学の立地や学生の大学の地域的選択に大きな影響を及ぼすものといえる。
すべての学習や研究がオンラインのみで完結するとは言えないが(現在の制度では大学卒業単位の半分以下しかオンライン講義での単位認定が認められていない)、大学選択における場所や経済的な負担の制約が緩和された世界では、学生は何を基準に大学を選択し、大学は何を特徴として教育をPRしていくのかが問われる。もし、高等教育がロケーションフリーで行えるとすれば、第3回「対立か共生か 地方VS東京圏」の地方と都市の共生関係で述べたとおり、昼はオンラインで都市あるいは海外の大学の講義を視聴し、アフターファイブと休日は、地元の若者としてアルバイトや生活を送るというライフスタイルが実現されるかもしれない。