世論がプーチン批判へと変化
このような世界中の世論の動きが後押しし、国際社会からの対ロシア制裁が大幅に強化されていった。金融面では、欧州連合(EU)などが、プーチン大統領の資産凍結をしたほか、当初、ドイツなどが慎重だった国際銀行間の送金・決済システムであるSWIFT(国際銀行間通信協会)についても、ロシアを排除する制裁に踏み切った。また、EUはEU領空へのロシア航空機の乗り入れ禁止などの追加制裁を科し、さらには、これまで武器輸出を厳格に管理してきたドイツが、ウクライナへの武器供与を決めたのだった。
ロシア国内でも、こうした国際状況を受けて反戦デモが拡大し、これまでに6000人が拘束されるなど、プーチン大統領に対する批判感情が高まっていると伝えられた。ここでも、「ロシアとウクライナは一つ」というプーチン流ディスインフォメーション戦略がブーメラン効果として跳ね返り、「同じ民族なのに、軍事侵略を行うのはおかしい」といった声が湧き上がったのだった。SNSという新しい時代の情報拡散ツールが、世界各国で「ウクライナ支持、ロシア批判」の流れを作り出していったとの見方もできる。
プーチン大統領は、今や核兵器にまで言及し、国際社会を威嚇している。しかし、情報戦に関していえば、プーチン大統領に数々の誤算があり、ロシアはそのディスインフォメーション・キャンペーンにおいて成果を挙げられていないといえよう。
厳しい綱渡りを迫られる中国
今回のロシアによるウクライナ侵略をめぐり、難しい立場に立たされているのが、中国である。中国はかねてより「領土保全」や「内政不干渉」原則を掲げてきた。欧米諸国が中国のウイグル族や香港の民主派弾圧を厳しく非難する際も、内政干渉だとして強く反発してきた。
こうした中国の伝統的な立場に照らすと、中国は、ロシアのウクライナ侵攻には賛成できず、本来はウクライナ側に立ち、ロシア批判に回らなければいけないものだった。その一方で中国は、米国と対立している今日、ロシアとの共闘を重視せざるを得ないという極めて難しい舵取りを迫られている。
具体的には、中国は、「ウクライナ問題には複雑で特殊な歴史的経緯がある」としてロシアに配慮し、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大というロシアの安全保障上の懸念に理解する姿勢を示す一方、国連におけるロシア非難決議に当たっては反対票を投じるのではなく、棄権を選択した。そして3月1日、ウクライナとの協議も行い、「政治的解決の努力を支持する」と伝えている。
日本国内では、今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関連し、台湾問題をはじめとする東アジアへの影響が懸念されている。米国が早々とウクライナへの軍派遣を否定し、ロシアが力により隣国を侵略するようなことが許されるならば、中国も台湾に武力侵攻する可能性が一層高まるのではないかという懸念である。
実態はそれほど単純ではなく、中国もロシアのウクライナへの軍事侵攻に賛成の立場を示さず、厳しい綱渡りを余儀なくされているが、同時に中国は、今回の事態を緻密に分析し、将来に備えようとするだろう。その関係で重要な一つの側面が、ディスインフォメーション・キャンペーンである。