2022年12月4日(日)

バイデンのアメリカ

2022年3月9日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

専門家からも「変調」の指摘

 こうした中、米国内のロシア専門家の間からも、警鐘が鳴らされ始めている。

 オバマ政権当時、駐露大使として5年間、モスクワに滞在し、プーチン大統領とは何回もさしで会談したことがあるというマイケル・マクフォール氏は去る1日、NBCテレビとのインタビューで次のように語っている:

 「私は、彼が過去何十年にもわたって主張してきた(ロシアの勢力拡大という)プロパガンダを今に至るまで信じ切っていることにいら立ちを感じている。私はロシア語も話せるし、いつも会談した際に、彼の主張にじっくり耳を傾け、何を言おうとしているのかもよくわかっていたつもりだ。しかし、今の彼は、一段とタガが外れた状態(increasingly unhinged)となっている」(“unhinged”は、精神科医の間で「精神的に動転した、狂気じみた、錯乱した」と訳されることもある)

 ジム・クラッパー前情報長官も、CNNテレビ番組の中で、プーチン氏の最近の変貌ぶりについて、「明らかにunhingedの状態にあり、彼の判断能力、バランス感覚を非常に心配している」とコメントしている。 

 プーチン大統領は、西側諸国が結束し、金融取引停止などの厳しい制裁措置を打ち出して以来、ロシア通貨ルーブルの大幅下落、輸入物価急上昇など国民経済に予想もしなかった打撃となってきたことで精神的に追い込まれている、との見方もある。

 クリントン政権当時、駐ポーランド大使を務めたダニエル・フリード「大西洋協議会」上級研究員もその一人だ。

 フリード氏は、米議会ニュース・メディア「The Hill」とのインタビューでこう語っている:

 「ロシア経済は今やつるべ落としに低落し、プーチンが国民をリードする正当性が失われつつある。彼は今世紀初期の段階で、『私は専制主義者となるであろうが、国の安寧と国民の暮らしの安定を保証する』という社会的契約を国民との間で結び、国民の側もそれを信じてきた。プーチンのこの約束は、正当性に基づく統治を前提としたものだったが、今や、国の財政が大混乱を引き起こし、そのすべての責任が彼自身にふりかかってきている」

 また、ロシア関連著作でピューリッツァー賞を受賞している歴史家のアン・アッペルバウム女史も、「プーチンにはかつて、KGB工作員として東独ドレズデンに駐在した当時、民主化要求の大衆抗議デモが全国的に拡大し、政権崩壊につながった記憶が鮮明に残っている」として、彼は今後、国際的制裁の強化、拡大により、ロシア経済がさらに困窮に追い込まれ、街頭デモの激化により政権の座から引きずり降ろされる事態になることを最も恐れている、と解説している。

 一方、上記のように、ごく最近になってプーチン大統領の精神状況に対する関心が一気に高まってきた背景として指摘されているのが、今回の対ウクライナ戦争に踏み切った「プーチンの3つの誤算」説だ。

 すなわち、プーチン氏によるウクライナ軍事侵攻は①短期戦で勝利できる、②(ゼレンスキー大統領をはじめとする)抵抗勢力は難なく屈服する、③米欧自由主義陣営による反応はバラバラで名ばかりのままで終わる――との判断の下に決定された。

 ところが、実際、ふたを開けてみると、戦況は長期戦の様相を呈し、ウクライナは大統領以下、国民の反露戦闘意欲を盛り立て、自由世界は驚くほど速いスピードで予想以上の大胆な制裁措置に踏み切った。

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