日本政府は22年2月1日、佐渡島の金山を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦した。その理由は、西三川砂金山と相川鶴子金銀山の2つで構成される佐渡金山は17世紀における世界最大の金生産地であり、世界の鉱山で機械化が進む中、独自での伝統的手工業を確立した、というもの。
これに対して韓国は、「佐渡鉱山」は明治以降に近代化され、太平洋戦争中は鉄や亜鉛など戦争遂行物資を産出し、1939年2月から約1200人の朝鮮人が強制労働させられたと主張して、世界文化遺産遺産への登録に反対している。また、反対するもう一つの理由として、端島(いわゆる軍艦島)が含まれた世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」(2015年)が登録された際に国際記念物遺跡会議(イコモス)から示された、「朝鮮人強制動員など資産と関連したすべての歴史を伝えること」を守っていないとも主張している。
日韓の見解は大きく異なるが、佐渡島の金山についてはイコモスによる現地調査などを経て、23年5月頃に登録の是非が勧告され、同年6〜7月頃に21カ国で構成するユネスコ世界遺産委員会が勧告を踏まえて登録の是非を審議する。
ここで重要なことは、日韓の歴史認識のいずれが正しいのかということではなく、現に韓国が日本の見解に異を唱えて、世界文化遺産への登録に反対しているという事実だ。だが、あえて双方の感情を代弁すれば、日本人の視点からは、長い歴史の中で朝鮮人が一時的に被害者として関係していたことをもって、その歴史的な意義を否定されることは納得がいかない。他方の韓国人の視点からは、明治以降の日本の近代化は朝鮮半島の植民地化と朝鮮人からの搾取によって成り立っており、それを肯定的に評価されることは歴史修正主義であり許し難い、というものだろう。
近代国家が、「民族」と「民族が支配する地域」を単位として成り立った経緯を考えれば、歴史認識問題や領有権問題は日韓の専売特許ではなく、世界中の国々で認められる普遍的な問題だといえる。そのため、なぜ韓国は日本のやることなすことにいちいち反対するのかという疑問に答えるとすれば、それは韓国が日本とは異なる民族で構成される隣国だからという解に収斂されるだろう。
しかし、これでは日韓関係を改善すると期待されている尹錫悦氏が、なぜ韓国の構造的ともいえる〝反日〟に抗することが難しいのかに答えていないため、韓国という国の成り立ちから構造的反日について考えていきたい。
独立運動組織が前身の韓国政府
現在に続く日韓関係の歴史上のスタート地点は、1904~05年の日露戦争と見るのが適切だろう。日露戦争の性格を端的に言い表せば、不凍港を求めて南下するロシアと朝鮮半島を緩衝地帯としておきたい日本とが朝鮮半島の覇権をめぐって争った戦いといえる。
日清戦争、日露戦争に勝利した日本は、朝鮮半島から清とロシアの影響を排除することに成功し、日韓併合条約を経て朝鮮半島の支配を確立した。余談だが、上述のとおり韓国が明治以降の歴史認識にこだわる理由は、ここにある。
その後、第二次世界大戦勃発後の43年11月、米英中は日本敗戦後の領土処理をめぐりカイロ会談を開き、朝鮮半島について「朝鮮人民の奴隷状態に留意し、適切な時期に朝鮮が自由に独立することを決意する」ことで合意し、この合意はポツダム宣言にも継承された。そして、ヤルタ協定に基づき対日参戦したソ連が朝鮮半島に侵攻し、日本の敗戦を機に38度線を境にして北側をソ連が、南側を米国が占領して、それぞれの地域に北朝鮮と韓国という国家が樹立された。