まず、ロシア側の姿勢の変化だが、ウクライナ侵攻開始以来、プーチン大統領はこれまで公式会見などを通じ、ウクライナ全域における「非軍事化」を強硬に主張してきた。
しかし、これまで数回にわたり、同大統領およびゼレンスキー大統領の双方と個別に会談、調停役を務めてきたイスラエルのベネット首相の「側近」が最近、米メディア「Axios」に洩らしたところによると、ロシア側はもはや「ウクライナ全域」に固執せず、ドネツク、ルハーンシク両州を抱える「ドンバス地方の非軍事化」要求へと主張を変えてきたという。
ドンバス地方は、本来、ロシア語を主言語とするロシア系住民が多数居住し、ロシア支持者も少なくなく、もし、報道が事実とすれば、ウクライナ政府側にとっても、休戦実現を条件としてこの点での譲歩の余地はあるとみられる。
ウクライナ側としては、「ドンバス地方の非軍事化」を承諾したとしても、もし今後、再びロシアによる軍事侵攻の危機に直面した場合、それ以外の広大な国内領土を対象として、西側陣営からの軍事支援の道を残すことで、安全確保が保証されることになる。
さらに、イスラエルの同筋によると、ロシア側は、ゼレンスキー政権の「退陣」についても要求を取り下げ、「ウクライナの主権尊重の用意」まで示し始めたという。
これも事実だとすれば、ロシア側は、これまでの交渉を通じゼレンスキー大統領が断固拒否反応を示してきた核心的2項目のいずれについて、妥協の姿勢を示し始めたことを意味している。
これに対し、ウクライナ側も歩み寄りの姿勢を見せ始めている。
ゼレンスキー大統領が、ロシアが強硬に反対してきた「NATO加盟」問題について、米ABCテレビ会見番組の中で「加盟要求については熱意が冷めてきた」と語ったこともその一つだ。
この発言の背景には、同大統領が当初、NATO加盟に意欲を示してきたものの、米欧仏独などの主要国がいずれも加盟に慎重または否定的態度を見せていることから、今の段階で望んでも実現の可能性が少ない、との判断が働いたものとみられる。
見えつつある「前向きな検討」
いずれにしても、NATO加盟断念ということになれば、ロシアが望む「中立化」に向けてワンステップ歩を進めることは間違いない。
また、この点に関連して、16日付けの英「ファイナンシャル・タイムズ」紙も、「両国交渉団が去る14日、休戦合意草案について協議を行った。草案の中には、ウクライナがNATO加盟および外国軍駐留を望まないことを条件として、米英トルコなどいくつかの国による安全保障の約束とりつけ案などが含まれる」と報じている。
同報道について、ウクライナ大統領側近のミハイロ・ポドリャク氏は「われわれがロシア側と停戦目指し交渉していることは確かだ。ロシア軍撤退、他国政府による対ウクライナ安全確保の保証などが焦点だ」との見解を示した。
一方のラブロフ露外相も16日、「ファイナンシャル・タイムズ」紙報道に関連して、「ウクライナの中立の立場に関して合意に近づいている」と前向きの発言をしている。