2024年4月27日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2022年5月7日

値上げを受け入れない国、ニッポン

 著者は物価が上がらなかった背景に、価格を変えない日本企業の慣行があったことを指摘する。米国企業は毎年2%から3%の価格引き上げを行うのが「デフォルト」であり、各企業はその程度の引き上げを毎年行っているにもかかわらず、日本企業は価格の据え置きがデフォルトだったと説明する。

 そうした慣行から脱却する最大のチャンスが13年の大規模金融緩和だったにも関わらず、果たせなかった。なぜなら日本には1円たりとも値上げを許さない厳しい消費者がいたからだ。一方、高いインフレを経験してきた国の消費者は、一定程度の値上げを予想するがゆえに受け入れるという。

 そして最近になって世界的な商品価格の上昇にともない、生活必需品などの値上げがクローズアップされている。長年低価格に慣れていた消費者が、渋々ながら受け入れざるをえない状況になっていることがニュースになる。それが日本である。

 その背後には、値段を据え置いたまま菓子や食べ物の容量が減らされる「ステルス値上げ」が広がったり、中身や内容がほとんど変わらない新商品をつくり出したりすることで価格にプレミアムを乗せる不都合な現実があることも紹介される。

 本書は物価の諸相と実体経済との関係を平易な表現でわかりやすく解説しつつも、本質を見極めようとする学問的な探求の質は決して落としていない。ロシアのウクライナ侵攻前の22年1月に出版されているが、今私たちが直面する物価をめぐる問題をリアルタイムで解説してくれるような先見性のある記述もみられる。世界各国でインフレの動きが活発化する中、時宜を得た一読の価値がある力作である。

 
 『Wedge』2021年10月号で「人をすり減らす経営はもうやめよう」を特集しております。
 日本企業の“保守的経営”が際立ち、先進国唯一ともいえる異常事態が続く。人材や設備への投資を怠り、価格転嫁せずに安売りを続け、従業員給与も上昇しない。また、ロスジェネ世代は明るい展望も見出せず、高齢化も進む……。「人をすり減らす」経営はもう限界だ。経営者は自身の決断が国民生活ひいては、日本経済の再生にもつながることを自覚し、一歩前に踏み出すときだ。
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