ペット民泊を阻む動物愛護管理法
ペットの飼い主と、一時的な預かりができる近所の住人をマッチングする、いわばペット向け「民泊」サービスが海外では大きく広がりを見せる市場となっている。それを受け、2017年頃から日本でも、犬の預かりのマッチングを手掛けるDogHuggy(ドッグハギー)や猫の預かりをマッチングするnyatching(ニャッチング)など色々なサービスが生まれている。しかしながら、米国から人(ヒト)の民泊Airbnbが上陸した際と同様に、既存ルールとの衝突が起きている。
ニャッチングを運営するnyansがグレーゾーン解消制度を利用して環境省から回答を得て認められた範囲は、以下のとおりである。
1) 利用者から仲介のシステム利用料を収受する。
2) 営利目的で預かる場合は第一種動物取扱業の登録をしている者のみとする。
3) 営利目的で預からない場合でも、利用者は交通費ほか実費に加えて任意の謝礼をシステム上の決済機能などを通じて渡すことは可能。
4) システム上で金額の表示や謝礼を促す表示はできない。
この内容からすると、第一種動物取扱業の登録をしていない限りは、ボランティアベースでの預かりに限られてしまい、任意の謝礼を超える報酬を受け取ることができない。第一種動物取扱業は、動物愛護管理法に従い、都道府県知事の登録を受ける必要がある。
現行の動物愛護管理法は、さまざまな種別の動物取扱業(販売・保管・貸出し・訓練・展示・競りあっせん・譲受飼養)に対し一律の規制基準を適用しており、種別や事業規模に応じた細やかな規制の棲み分けはなされていない。個人による少規模な動物預りなど本来規制の必要性の低い業態に対して過度な規制となっている。
すなわち、第一種動物取扱業登録のためには、都道府県職員による立入検査が実施された上で、実務経験などの要件を満たす動物取扱責任者を選任すること、標識を掲示することに加えて、ケージや死体の一時保管場所などの飼養施設の設置を確認される等、一般個人にはそぐわない要件が課されてしまっているのが現状である。事実上ペットホテルの運営事業者でもない限り、個人が気軽に登録できるものではない。
しかし、動物愛護管理法第1条で定める目的に照らしても、かかる要件を個人による小規模な動物預かりにまで適用する必要性は乏しい。他方、個人が自ら生活する自宅という環境で動物を預かることは、飼い主不在時の動物のストレス軽減や、人と動物の共生社会の実現を目指す動物愛護管理法の目的に寄与することが期待できる。
そこで、筆者も関与しているシェアリングエコノミー協会は、課題解決アプローチとして、個人の自宅における小規模なペット預かりについては、登録制から届出制へ緩和した上で、第一種動物取扱業に係る動物愛護管理法上の一定の義務(①標識の掲示義務、②動物取扱責任者の選任義務、③重要事項説明者の配置義務、④飼育施設の設置義務等)の適用を除外するという方法を検討し、以下のような法改正を提案している。
残念ながら19年6月の同法改正のタイミングでは、これらの改正案が盛り込まれることはなかった。ただ、上記提案の成果として、付則に「前二項に定めるもののほか、国は、動物取扱業者による動物の飼養又は保管の状況を勘案し、動物取扱業者についての規制の在り方全般について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて 所要の措置を講ずるものとする。」という文言が盛り込まれ、同付則第11条で「前三条に定めるもののほか、政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後の動物の愛護及び管理に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とされるに至った。
このような形で付則とはいえ、今後の検討課題として〝ピン留め〟されたことは前向きにとらえるべきではあるものの、実際にその後3年が経過したが、コロナ禍の影響もあってか、それ以降議論が進んでいない。
まだまだ新型コロナウィルスとの闘いに終止符が打たれた訳ではないものの、ポストコロナの新しい生活様式が徐々に浸透してきたところであり、これから〝リベンジ消費〟とも言われている旅行を含むアクティビティに加えて、ビジネス上の出張等も増えてくると思われる。飼い主不在時のペットのストレス軽減のためにも、人と動物の共生社会の実現を目指す動物愛護管理法の目的に沿う形で新しいルールメイクをしていく必要があるのではないか。