7月5日付のResponsible Statecraftのサイトで、米ケイトー研究所のバンドウが、北大西洋条約機構(NATO)が中国に目を向けるのは早すぎる、欧州は対ロ防衛能力の拡大に焦点を当てるべきだと述べている。
バンドウ(レーガン政権の大統領補佐官、現在保守系シンクタンクのケイトー研究所に所属)は、先般のNATO首脳会議が中国の脅威を取り上げたことが余程不満なのか、種々批判をする。同氏は、「NATOは対ロシア防衛能力の拡大に焦点を当てるべきだ。このプロセスが完了したならば、中国を潜在的敵対国リストに加えればよい。その時まで、欧州はアジア太平洋パワーだと振舞うことは止めるべきだ」と主張する。
更に「対ロシア防衛につき未だ真剣にやれないのに、遠くのもっと手ごわい大国に対決することは出来ないだろう」、「NATOはアジア太平洋で何をしようというのか」と言う。その上で、当面、欧州とアジアの協力は、NATOではなくEUや加盟国が、人権、サイバー、供給網、貿易や経済圧迫の分野でやるべきだとする。
しかし、今年の首脳会議が、日豪韓NZの首脳を招き、中国の「システミックな挑戦」を新たな戦略概念に規定し、アジアとの協力に言及したことは、大きな意味がある。それは早過ぎるどころか、時宜に適っている。
今日ほど、世界の安全保障が不可分になっていることはない。中国は増大する国力を攻撃的な膨張主義に転化し、ウクライナ戦争で中露は連携を強く維持している。
仮に台湾有事になれば、それはグローバルな問題でありグローバルな対応が必要になる。NATOが中国とインド太平洋に関心を持つことは、良いことであり、必要なことである。
バンドウの議論はNATOの優先順位論かもしれないが、今年のNATO首脳会議の意義を過小評価することは適当でない。寧ろここ10年余の欧州の中国への経済傾斜については、NATOがその安全保障上のリスクを指摘しても良かった位だ。
岸田文雄首相が選挙運動中にも拘わらずNATO首脳会議に出席したことは、良かった。今後米豪等と連携してNATO、欧州との関係を着実に強めていくべきだ。また英仏独等が個別に演習等でアジア太平洋に来ることを一層慫慂(しょうよう)していくべきだ。
もう一つこの記事で注目したのは、ロシアのウクライナ侵攻に至る冷戦後の西側の対応につきバンドウが批判的であることだ。屡々プーチンが述べてきた安全保障上の懸念を「無視」し、「一連の同盟国の確約に違反して」NATOを東方に拡大した、プーチンとの交渉も拒否してきたと言い、それ故今回ウクライナ侵攻は正当化されるものではないが「驚くべきことではない」と言う。