2024年11月21日(木)

食の安全 常識・非常識

2022年8月9日

 EUの欧州食品安全機関(EFSA)は、Kimura-Kuroda論文でとられた手法について、「限界があり発達神経毒性を調べるためのスクリーニングツールとして使うことはできない」と判断し、発達神経毒性についてはより詳しい研究が必要だ、としています。

 同様に日本の食品安全委員会も、この論文を評価に用いることはできないと判断しており、14年にアセタミプリドを評価したときも、エビデンスとしてより強い「生きたラットを用いた試験」で発達神経毒性を調べた結果をリスク評価に用いています。 

 ネオニコの発達神経毒性については、10年前にKimura-Kuroda論文が発表された後、世界各国で研究が行われていますが、目立った知見は出ていません。EFSAの専門家パネルがアセタミプリドについてさまざまな試験結果を集めて評価し22年に声明を公表していますが、「進展がない」としています。

 こうした状況を無視し、「ネオニコの使用が増え、自閉症・発達障害の人が増えた。だから、ネオニコ系が原因だ」という主張をするメディア等もあります。しかし、相関関係と因果関係は異なります。一方が増えれば他方も増える、という相関関係があっても、偶然に増減が一致しているだけ、ということはよくあります。

 そもそも、「自閉症・発達障害の人が増えている」とされていますが、診断基準の変更、社会的な受容の拡大、母親の痩せによる胎児期の低栄養等、さまざまな要素が増加の原因候補として上がり、農薬等の化学物質の影響も可能性が研究されている、という段階です。

 まだ、原因だと確定できる根拠はないのです。SNSで「農薬への不安をあおってお金儲けをするのに発達障害を持ち出すのはやめてください」と呼びかける当事者もいます。不安を抱える人たちに誠実に応えるためにも、今後も予断なく研究を積み重ね、科学的なリスク評価を行う必要があります。

(5)日本人の「一日摂取量」はADIの1%にも至らない

 「日本は緩和」と聞かされて、日本では大量にネオニコを食べさせられている、と思っていませんか? 店頭で購入した食品の分析から、平均的な日本人は実際にはあまり食べていないことがわかっています。

 残留農薬を食べる場合の健康影響については、内閣府食品安全委員会が各成分について毒性評価を行っています。EUが懸念の根拠とした論文についても検討したうえで、ADI、ARfDを決定しています。

 それらを踏まえ、ネオニコの使用方法や残留基準等が決められて使われており、日本でさまざまな食品を食べた時にどの程度のネオニコを食べているかという「一日摂取量」も調査されています。20年度の結果は表3のとおり。

 ADIの1%にも満たない量しか摂取していません。アセタミプリドはEUで日本よりも低い0.025mg/kg体重/日というADIが設定されていますが、日本人の平均的摂取量は、この数字と比べても著しく低いのです。

(6)ネオニコをもし禁止したら、代わりになにが使われるか?

 ここまで読んで、こう考えていませんか?

 ミツバチに影響があり使い方が難しい。ヒトの発達神経毒性への影響も疑われている。少しでも問題がありそうなら、日本もEUのようにさっさと禁止すればよいではないか?

 たしかに一理あります。でも、EUが単純に禁止しているわけではないことは(2)で説明しました。EUには老獪な〝抜け道〟があります。しかし、日本の農薬制度においては「ほかに作物の害虫リスクを防ぐ方法がないから、緊急認可」という方策は認められていません。


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