2024年4月20日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年8月20日

難易度高いスマートシティは
都市経営の「総合格闘技」

 「スマートシティは数ある行政課題の中でも特に難易度が高い。都市経営の『総合格闘技』と言えるものだ」

 こう話すのは、茨城県の前つくば市副市長で現在は地方自治体の政策アドバイザーを務める毛塚幹人氏だ。同氏は「行政庁内のデジタルトランスフォーメーション(DX)であれば情報部門と各所管部門間の調整だけで済むが、スマートシティは個別最適に陥りがちな、分野の異なる部門間の合意形成が必要となる。さらには、民間企業や地域住民などステークホルダーが多く、さまざまな法規制もクリアしなければいけない。多くの自治体が悩みを抱えているのではないか」と指摘する。

 スマートシティに一枚岩になって取り組めていない自治体も多い。ある自治体の推進担当者は「各担当課にスマートシティ施策を相談すると、『仕事が増える』とあからさまに嫌な態度をされ、後回しにされてしまう。縦割り行政の弊害だ」と嘆く。

 新しいチャレンジを進めるのは簡単ではない。東京都東村山市では、20年度に国土交通省のスマートシティ重点事業化促進プロジェクトに指定された。高齢化と地域経済循環率の低さに着目し、AI配車システムや地域通貨として利用可能なシステムなどの実証に向け準備を進めていたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け実証実験は中止に。コロナ禍もあり職員の業務が増える中で、進取の気風は生じにくく、まずは市役所内のDXを進める方向に舵を切ったという。

 同市経営政策部の谷伸也経営改革課長は「他の自治体に先駆けてスマートシティを進めたいという思いはあるが、職員の意識改革から着手しなければならないのが現状だ」と話す。

 スマートシティのコンサルティング業務で多くの自治体との接点を持つ、スマートシティ企画(東京都千代田区)の石垣祥次郎取締役は、「リスクを取らずに正解を求めたがるのが良くも悪くも行政の体質で、新規の提案をしても他の自治体の先行事例の説明を求められることがある。前例が少ないデジタル化やスマートシティは従来の業務と相性が悪い分野だろう」と分析する。

 住民理解を得る難しさに直面しているケースもある。スマートシティは、人とまちとデータが全てつながることで都市機能やサービスの一層の効率化・高度化を図ることができる。

 そこで立ちふさがるのが、地域住民のプライバシーの問題だ。「データ駆動型のスマートシティ」の実現を目指す富山市もその壁に直面した。

 同市では、無線通信ネットワーク網と、これを経由してIoTセンサーからデータ収集・管理するプラットフォーム(都市OS)で構成された「富山市センサーネットワーク」を18年に市内のほぼ全域に整備。同年には、市民への理解・周知を促すために、市内の小学生にGPSセンサーを配布する「こどもを見守る地域連携事業」も開始した。


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