だが、当初は導入メリットがうまく伝わらない上、児童にGPSセンサーを持たせることに拒否反応を示す保護者もいた。富山市スマートシティ推進課の城石裕幸係長は「『子供が監視されてしまうのではないか』といった不安の声をいただくなど、初年度の参加率は約50%だった」と振り返る。
この事業が浸透すれば、児童の登下校時の位置情報をビッグデータとして収集・分析でき、集団登校のグループが、何時何分に、どの道路を通り通学しているかの実態も可視化できる。保護者の安心感につながることに加え、地元の交通ボランティアの配置や動員時間を最適化することも可能だ。同市では取得したデータの分析結果を各小学校区の保護者全員に配布し、PTAの会議でその便益を説明することで、少しずつ保護者や地域住民のデータ分析に対する理解が深まりつつあるという。
都市政策が専門の日本大学経済学部中川雅之教授は「住民が自治体に対し、個人情報に近いレベルの情報を提供すること、それを集合化して分析することを許容しなければ、本格的な都市のスマート化は進まない。住民が『リスクより利便性が上回った』という実感を得られるように、自治体は提供するサービスを充実させ、その説明を丁寧にしていくことが不可欠だ」と話す。
地域が抱える課題は、もはや自治体の力だけでは解決できない。だからこそ、民間企業と協業しながら解決していくことが欠かせない。宇都宮市では、23年に開業予定のLRT(次世代型路面電車システム)を契機としたスマートシティの実現を掲げ、民間企業や大学とともにモビリティー分野などで計18件の実証を重ねてきた。しかし、民間のデジタル技術頼りで進めた実証実験では、当初の見立てと乖離する結果になったものもあったという。
同市総合政策部スーパースマートシティ推進室の望月寛室長補佐は「実現したい姿や取得したいデータをあらかじめ明確にデザインできていないと、社会実装につなげていくことはできない。市がまちの課題を示し、民間企業や大学などと一緒に将来の絵を描いていくことが重要だ」と話す。
民間企業側も行政と協業していくうえでもどかしさを感じることがあるという。人流情報などをAIで分析・可視化するデータプラットフォームを提供するGEOTRA(東京都千代田区)の陣内寛大代表取締役社長は「自治体から『都市に関する網羅的なデータを集めてほしい』という漠然とした依頼を受けることもあるが、データ収集が目的化しては意味がない。自治体職員こそ地域の課題を誰よりも認識できているのであるから、『このエリアのこの時間帯の人流データを収集・分析しサービス向上につなげたい』といった明確な狙いを定め、そこにリソースを割くべきではないか」と指摘する。