2022年9月26日(月)

バイデンのアメリカ

2022年9月19日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 トランプ前大統領が引き起こした一連の破天荒な行動について、米国の専門家や有力メディアの間で「起訴すべき」との核心に迫る主張や見解が広がり始めた。慎重に捜査を進めてきた司法省は、厳しい最終決断を迫られつつある。

(ロイター/アフロ)

異例のメディアによる「断罪」

 「彼は自ら犯した恥ずべき行為に対し、法の下で裁かれるべきだ」――。

 起訴を求め真っ先に〝のろし〟を挙げたのは、ニューヨーク・タイムズ紙だった。同紙は、去る8月26日、「ドナルド・トランプは法の上の存在ではない」との見出しで始まる大胆な社論を展開した。

 公正な報道を求められる一流メディアが、当局による捜査中の案件について事前に「起訴」という見解を出すこと自体、異例中の異例だ。まして、米国で最も高い評価と信頼を勝ち得てきたニューヨーク・タイムズ紙による公式な立場表明だっただけに、CNN, NBC, Fox News などの主要TVも、即日、その内容を報じるなど、大きな反響を巻き起こしている。

 その要旨は、以下のようなものだった。

 「トランプ案件捜査について、司法省は今月に入り、米連邦捜査局(FBI)がフロリダ州の邸宅捜索に踏み切るまで硬く沈黙を守ってきた。しかし、前大統領が直面するもろもろの刑事捜査は、アメリカン・デモクラシーに抵触する深遠な内容を含んでおり、それぞれについてきちんとした答えが求められる」

 「とくに、彼が2020年大統領選挙後に起こした目を覆うべき職権乱用行為については、連邦議会の特別調査でその全容が明らかにされたが、合衆国憲法を蹂躙し、米国人民の意思を覆したことは、もはや疑う余地がない。選挙で敗北したにもかかわらず、連邦捜査当局、各州の州務責任者、国家選挙管理委員会の当事者たちに圧力をかけ、現職に居座ろうとした。それが不成功に終わると、武装集団を連邦議会にけしかけ、議員たちを脅迫したのである」

 「司法省は、彼が大統領選挙結果の転覆に果たした役割、国家機密書類の持ち出しなどについて捜査に乗り出していると伝えられる。もし、メリック・ガーランド長官と部下の捜査当局者たちが、深刻な罪を問うに値する十分な確証があると結論付けた場合、躊躇することなく彼を起訴すべきである。本紙論説委員会は、トランプ氏を罪に問うべきかどうかの判断に際し、刑事告発が当を射たものかどうかはもちろん、それが賢明かどうかについても考慮しなければならないことを十分承知している。退任後の米国大統領が刑事訴追されたことは米国史上なかったことであり、かつてフォード大統領は、ウォーターゲート事件で罪に問われたニクソン大統領について、『醜い国民感情を掻き立て、政治的分断化につながる』として恩赦の決定を下した。トランプ氏についても、司法省が起訴に踏み切った場合、野党共和党側から『政争の具に利用した』との猛烈な批判が燃え上がり、トランプ過激分子たちによる暴力行為を引き起こす可能性も否定できない」

 「しかし、行動が求められる時に無為無策のままでいることは、より大きなリスクをもたらす。彼が罪を逃れることのほかに、連邦議事堂乱入・占拠事件に至る数カ月間にとった幾多の個人的行動を不問に付すことになれば、将来の大統領たちに悪しき前例を残すことは避けられない。何をしでかしても大統領は法の適用外であり、在任中に私服を肥やし、政敵を懲罰し、好き勝手なことができるという誤解を生じさせることになる。より重要なことは、民主的政府とはつねに、現実に立脚した理想であり、アメリカ合衆国も諸原則厳守を目的とした決然たる行動によって護持されるということである。同事件に関連して、すでに何百人という米国人が起訴処分となっている。しかし、彼らを扇動したトランプ氏だけが、責任を問われないとすれば、不条理以外の何物でもないであろう」

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