2022年12月9日(金)

21世紀の安全保障論

2022年11月2日

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部谷直亮 (ひだに・なおあき)

慶應義塾大学SFC研究所上席所員

成蹊大学法学部政治学科卒業、拓殖大学大学院安全保障専攻修士課程(修了)、拓殖大学大学院安全保障専攻博士課程(単位取得退学)。財団法人世界政経調査会 国際情勢研究所研究員等を経て、一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構上席研究員、現職。

ロシア海軍に衝撃を与えた戦果

 それではこの人類史上初の対艦ドローン攻撃は、どのような戦果を生み出したのだろうか。やや早計でもあるが現時点での情報から分かる最低限のことを導き出してみよう。

 ロシア軍は9機のドローンと7隻の自爆USVが攻撃に参加したとし、すべて撃破したとしている。損害は小さな掃海艇1隻が損傷しただけだとしている。全機撃破と損害軽微の証拠は示されていない。

 しかしウクライナ軍が公開した映像からはロシア軍の〝大本営発表〟は疑わしく思える。例えば以下の映像では、巡洋艦モスクワ撃沈後に黒海艦隊旗艦を引き継いだ最新鋭フリゲート艦アドミラル・マカロフに向かって突撃を敢行する様子が見て取れる。

 ここで重要なのは自爆USVがヘリやマカロフからの激しい銃撃や砲撃をものともせずに高速で突撃している様子や易々と港に接近している姿が伺えることだ。本当にこの攻撃を回避できたか疑わしい状況だ。

 またSNSでは黒煙を上げるセヴァストポリ港の画像や爆発する映像も出ており、なんらかの被害があったことは間違いないだろう。攻撃前後の衛星画像を比較して港で黒く焦げた部分があったという指摘もある。他方、翌日の別の衛星画像とされるものではマカロフは上から見る限りでは損傷を確認できない。

SNS上では、セヴァストポリ港で黒煙を上げる映像も散見される

 少なくとも在泊艦艇なり港湾設備に自爆USVが何らかの打撃を与えたことは間違いないだろう。事実、ウクライナ政府高官は、ニューヨークタイムズに対し、ロシア軍の掃海艇は深刻な被害―大本営発表とは裏腹に―を受けており、おそらく修理不可能だと語っている。

 少なくともロシア軍に与えた心理的打撃は大きい。これはロシア軍の反応からもよく分かる。ロシア軍は「敵機全機撃墜、わが方の損害軽微なり」としながらも、この攻撃への報復として国際合意を破棄し、ウクライナ産の農産物輸出を一時停止するとした。大本営発表が事実なら一方的な大勝利を収めたはずなのに奇妙なことだ。

 物理的な被害に関わらずロシアをしてトルコが仲介してまで結実した国際合意を破棄させるほどの衝撃を与えたことは間違いない。

 無理からぬことだ。海軍力が皆無に等しいウクライナ軍によって、黒海では最強のはずの艦隊を持つロシア海軍が安価なドローン戦力によって翻弄―少なくとも映像では防御できていたようには見えない―され、母港ですら安全ではないと世界に証明されてしまったのだから。

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