2022年12月9日(金)

21世紀の安全保障論

2022年11月2日

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部谷直亮 (ひだに・なおあき)

慶應義塾大学SFC研究所上席所員

成蹊大学法学部政治学科卒業、拓殖大学大学院安全保障専攻修士課程(修了)、拓殖大学大学院安全保障専攻博士課程(単位取得退学)。財団法人世界政経調査会 国際情勢研究所研究員等を経て、一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構上席研究員、現職。

現代版大艦巨砲主義の終わりの始まり

 それでは今回の攻撃が意味するものとは何か。

 それは海軍史上の画期となる可能性が高く、現代版の大艦巨砲主義を終わらせる号砲だということだ。少なくとも過去に回収された自爆USVと今回の攻撃が同一ならば、おそろしく低コストな無人兵器によって、人間という高コストなアセットを積載した高コストな艦艇が襲撃され、損傷もしくはその危機に瀕したことになる。

 これまで海軍力を整備する際は、艦艇が保有するVLS(垂直発射システム)の個艦における数とその艦艇数が重視されてきた。あたかも第二次大戦以前において戦艦の主砲の大きさと数が問題とされてきたように。

 しかし第二次大戦以前の価値観が航空母艦というゲームチェンジャーの登場によって破壊されたように、今回の事例は将来的にUSVのコスト低下と性能向上によって同じことが起きる可能性を示したものと評せる。

 長年の訓練によって練磨した乗組員を積載し、長期的な建艦計画に基づいて配備された高価な艦艇が、四次産業革命を背景とする民生品の寄せ集めの安価な無人兵器によって損傷させられた上に、怯えなければならなくなっていることはどうみても軍事史の転換点だろう。

 空を飛ぶドローンの軍事的有用性は―自衛隊とその奇妙な応援団が拒否してきたが―2020年のナゴルノカラバフ紛争や2022年のロシア・ウクライナ戦争によって証明された。ポーツマス大学のピーター・リー教授が指摘するように「もはやドローンが無ければ、戦争を遂行することは出来ない」のだ。

 それが今、海戦でも起きようとしている。筆者らは今年8月の共著論文で、サイバー空間と一体化した低空・水上・浅海域がドローンによって新しい戦闘領域になっており、無人兵器とそれに付随する兵器の独壇場になりつつあると予見したが、それが現実によって証明された形だ。

「新しい戦い方」への転換迫られる日本の防衛力整備

 もう一つは日本の防衛力整備も見直す必要があるということだ。

 現在、日本では今後10年の国家安全保障及び国防態勢を定める戦略3文書とされる国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画の策定が年末の公開を目指して進んでいるが、これは最後のチャンスでもある。

 ようやくドローン前提軍へと舵を切り始めた自衛隊だが、あくまでも職種ごとの発想や調達に縛られてしまっている。なによりも問題なのはこれまでの兵器や人間を置き換える、つまり少子高齢化問題を解決する省人化の発想にとらわれていることだ。

 つまりドローン等を活かした新しい戦い方を志向するのではなく、ロシア軍のように古い戦い方の道具にしようとしているのだ。実際、電波法や航空法の縛りで現場部隊はロクにドローンを運用できず、せっかく調達した小型ドローンも目視可能な距離で弱風の際にのみ運用する自撮り棒状態となっている。

 残念ながら海自のドローン対策も進んでいない。

 2012年に米海軍大学院はシミュレーションの結果、8機のドローンがイージス艦に対艦攻撃した場合、3.82機のドローンがイージス艦への突入に成功するとしている。本研究は東京湾のようなエリアのために主砲やミサイルを使わない想定だが、仮に洋上戦闘だとしても艦隊戦の前に安価なドローンに高価で補充できない対空ミサイルを射耗することは致命的だ。

 そして「イージス艦の戦闘システムは高速、レーダー断面の大きい目標と交戦することに特化しており、UAVのような低速、レーダー断面の小さい目標に対しては脆弱である」「レーザーは連射が効かないことから自爆UAVが複数襲来する状況では問題になる」とも指摘し、米海軍は最近でも自爆ドローンのスウォーム攻撃に備える実験を繰り返している。2021年4月には、米海軍はドローンの群れによる対艦攻撃演習も実施している。米海軍は艦隊戦においてドローン攻撃を目指し、また備えつつあるのだ。

 一方で、中国軍はスウォーム攻撃する自爆ドローンによって、以下の図のように日米の艦隊をせん滅する構想を示しているほか、最近でもAIで駆動する無人水上艦の実験に成功もしている。

中国軍が軍事博物館の展示で示した偵察ドローン、電子戦ドローン、自爆ドローンのそれぞれのスウォームで米空母を撃沈する構想図(米空軍研究所より引用)

 電子妨害による援護と同時に対艦攻撃するスウォームドローンに対する防空演習も繰り返しており、ドローンの運用やドローンのAIの学習も進んでいると思われる。特に厄介なのは、中国軍はドローンからの電波妨害を重視していることだ。WZ-7翔竜のように敵艦隊の通信妨害に特化した機体もあり、今年9月にも台湾の防空識別圏へ侵入もさせている。

 しかし海自の護衛艦は無防備なままで、ほとんど対策もしていない。中東の武装集団ヒズボラはドローン保有数が2000機だとされるが、自衛隊は今夏の岸信夫防衛相(当時)の説明によれば家電量販店で売っているドローンを含めて1000機しか保有していない。自衛隊はヒズボラよりもドローンに関しては軍事的に劣後しているのだ。

 このような「周回遅れ」を重ねた状況で中国海軍と戦えば海自は壊滅しかねない。

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