2024年4月26日(金)

日本の医療〝変革〟最前線

2022年11月9日

増税も手だが、「応能負担」強化の模索を

 こうした策しか手の打ちようがないのだろうか。収入増になりそうな策に目を転じてみよう。まず、考えられるのは保険財源の半分を占める税金の増額である。消費税から回される。安倍晋三政権が消費税の10年間据え置きを宣言して以来、この議論は火が消えたようだが、見直しに着手できないことはない。

 欧州諸国の消費税は最高の25%が多く、大半は20%に近い。日本の10%はあまりにも低率。消費税は社会保障にしか使わない、と決めており、その社会保障が窮地に陥っている。出番のはずだ。

 だが、税の比重があまりにも高まると、「保険」の意味が薄れ、措置時代に逆行しかねない。「社会化」の具体策としての「サービス選択の自由」が失われてはならない。

 日本より5年早く介護保険を始めたドイツでは、全額保険料で運営している。税に頼らない。本来の保険制度だ。ビスマルク以来の伝統でもある。そのため自律度が高い。

 では、日本でも保険料を主とし、その増額はどうだろうか。近々、団塊世代がサービス利用者の主役となる。その所得は従来の高齢者と中身が大きく変わる。学生時代に地方から首都圏や近畿圏などに移動し、そのまま大都市に住み着いたのが団塊世代。上場企業をはじめ企業勤務者が大半だったので厚生年金の受給者である。

 介護保険創設時の利用者は、地方で暮らす国民年金受給者が多かったが、状況は変容しつつある。厚生年金は国民年金よりはるかに受給額は多い。つまり、より多くの保険料を設定することができる。

 市区町村保険者が作成する保険料徴収プランで、高所得者からの徴収をより高額にしてもいいはずだ。「応能負担」の強化である。31日の介護保険部会で厚労省が示したのは①の保険料の見直し案だった。

 国の基準では所得に応じて9段階に分けている。基準額(現行月6014円)の最高1.7倍(年320万円以上の所得)から最低0.3倍(生活保護受給者など)までだ。この最高段階を増やそうという案である。

 独自に引き上げている保険者の自治体も既にある。東京都練馬区は17段階としており、最高額(5000万円以上の所得者)は月3万1020円、年間で37万2240円だ。同世田谷区も17段階で、最高(3500万円以上の所得者)は月2万5956円、年間31万1472円。「応能負担の考え方で段階を増やしてきた」(世田谷区担当者)という。

 多くの自治体は国基準のままなので、国が最高額を引き上げれば増収になる。ただ今回の厚労省案では、低所得者の引き下げを同時に実施し、増収分を回すというから差し引きゼロになってしまう。引き下げ分を上回る引き上げ幅としなければ増収とはならない。

 そして、もう一つの策は40歳からとしている保険料徴収年齢を20歳まで下げる策だ。今回提案の②に近い。ケアを必要としている人の枠を拡大する。障害者も被保険者・受給者となり、障害者支援制度との一体化を図る。かつて介護保険制度の発足直前には議論されたことだ。

 いっそのこと20歳を0歳時まで下げてしまい、制度の「普遍化」を目指す。事実上の「こども保険」との融合も考えられる。少子化対策で浮上してきたこども保険。介護保険制度の延長策として十分想定できるはずだ。

 
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