2024年11月25日(月)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年11月25日

 一方で、この新球場を設計したのはHKS社という米国企業だ。HKSは創業80年を超える老舗で、多くのスタジアムの設計実績があるプロ中のプロである。近年ではロスのアメリカン・フットボール競技場「SoFiスタジアム」の設計が高く評価されている。

なぜルールが異なるか、見えない原理原則

 今回の事件だが、既にほぼ完成している新球場を改めて改修するとなると、23年の開幕には間に合わない中では他に判断はなかった。その点は分かる。だが、一連の経緯を考えると、野球界には一貫した方針があるのか、はなはだ疑わしいと言えよう。この点には危機感を覚える。

 まず日本の野球規則と、米国の公式ルールの関係だが、漠然と「1年遅れで反映」しつつ、ケースバイケースで独自ルールを加えているようだ。そのうえで、HKSは根幹の部分は同一だという理解で設計し、日本の事務局も老舗HKSの仕事なら間違いないと思って監査が甘かったというような「行き違い」があったと考えるのなら、まず必要なのは両国ルールの関係を明確にすることだ。

 現在のように「形式の建前は別」だが「実際は1年遅れで米国追随」、だが「一部は独自ルール」という曖昧な姿勢では、今後も別のところで日米ルールのズレが問題になる可能性がある。勿論、日本には日本独自の事情がある。例えば、ファールボールが飛ぶと注意喚起の笛がなるとか、内野のネットが厳重に張られているというのは、別に日本がゼロリスク社会であるだけでなく、観客席の中に硬球捕球経験のある人の割合が少ないからだ。

 今回の問題も、60フィートというルールは、そもそもネットのない球場の存在も考えて内野観客席を塁線から離す距離が基本になっている。仮にそうした安全性を考えて、日本のルールが米国より厳格な表現になっているのなら、そのように理解して球界で共有すればいいだけのことだ。

 一方で、試合内容を大きく左右するようなルールの場合は、あまり日米の間で差ができてしまうと、記録の通算や、スカウトの評価などにおいて、同じ基準が使えなくなる。同じ野球というスポーツを楽しみ、相互交流も大事にするのであれば、両国のルールがあまり大きく乖離しないような協議の場も必要だろう。

 一番の問題は、こうした原理原則が曖昧にされていることだ。また、今回の騒動の事実関係をウヤムヤにしつつ、日ハム球団が「謝罪」したので妥協措置が認められたというのも妙な話だし、こうしたルールの運用がオーナー会議の権限だというのも理解できない。そこには何よりもファンを大切にする姿勢というものが欠けているからだ。


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