2023年1月30日(月)

Wedge OPINION

2022年12月21日

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遠藤典子 (えんどう・のりこ)

慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授

京都大学大学院エネルギー科学研究科博士課程修了(博士 エネルギー科学)。専門はエネルギー政策、セキュリティガバナンス。『原子力損害賠償制度の研究―東京電力福島原発事故からの考察』(岩波新書)で大佛次郎論壇賞。

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佐々木経世 (ささき・けいしん)

イーソリューションズ代表取締役社長

慶應義塾大学大学院(計測工学修士課程)、MIT Sloan School of Management(Master of Science in Management)修了。日本鋼管(現JFEスチール)、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現ブーズ・アンド・カンパニー)、ソフトバンクなどを経て、1999年にイーソリューションズを設立、代表取締役社長に就任。

[執筆記事]
新潟県にある柏崎刈羽原子力発電所ではすべての原子炉が運転を停止した状況が続いている(KYODONEWS/GETTYIMAGES)

 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、世界のエネルギー需給に大きな構造変化をもたらした。中でも、天然ガスの約4割をロシアからパイプラインを通じて輸入してきた欧州連合(EU)は、ロシアから経済制裁への報復とみられる一部供給停止措置を受けており、代替先の確保を急いでいる。

 第一はパイプラインルートの再編である。たとえばイタリアは4月、北アフリカのアルジェリアから天然ガス供給拡大について合意を取り付けた。

 第二に液化天然ガス(LNG)への切り替えである。たとえばドイツは、3月に中東のカタールとLNG長期契約について暫定合意、9月にアラブ首長国連邦と合意した。足元では米国からの輸入を急拡大した結果、EUにおける22年のLNG輸入量は、前年1位だった中国、2位の日本を上回ることになりそうだ。仮にロシア産ガスを全てLNGで賄う場合、世界で流通する総量の3分の1程度を奪う必要があるとみられている。

 第三が原子力発電所の運転延長である。原発廃止を表明していたドイツは、22年末に廃止予定の3基のうち2基について稼働できる状態を23年4月中旬まで保つと改めた。同じく脱原発を唱えていたベルギーも、25年に閉鎖予定だった2基について、10年間の運転延長を決めた。

 一般家庭への配給不足すら想定されたこの冬の深刻な天然ガス不足は、各国が在庫を積み増しした結果、どうにか克服できる見込みである。実際、8月に1メガワット時当たり339ユーロと年初の4倍近くに跳ね上がった欧州天然ガス指標価格(オランダTTF)は、11月末には120ユーロ程度に落ち着いている。しかし、在庫が底をつく23年にはまた危機は再来し、ロシアとの安定的外交関係の回復は当面見込めぬため、長期化すると考えられる。

綱渡り状態の電力供給
動き始めた政策議論

 一方日本も、LNG輸入の8・8%をロシアに依存している。そのほとんどがサハリン2プロジェクトからもたらされているが、売買契約を改定するなどして、12月1日時点で権益を維持しており供給途絶には至っていない。それでも、制裁への報復リスクは引き続き残ったままだ。

 そもそもここ数年、日本は夏季および冬季に深刻な電力需給逼迫に直面してきた。電力供給力の余裕度を表す予備率が安定供給に最低限必要な3%を一時下回る見通しが示されるなど、中・小型火力発電が1基でも脱落すれば停電に陥るような綱渡りの状況である。その要因はひとえに供給力不足である。電力自由化の下、大手電力会社ですら発電するより小売市場から電気を調達したほうが安価な状況が生み出されたこと、気候変動政策のもと老朽火力が一斉に退出したこと、原発再稼働が遅れていることなどが背景だ。

 原発や石炭火力については、安定的な出力を保つベースロード電源として供給を支えてきたが、近年はLNG火力が出力不安定な再生可能エネルギーの負荷調整を行うだけでなく、ベースロード電源の役割まで担い、LNGへの依存度はますます高まっていた。加えて、グローバルな需給逼迫に円安も相まって、エネルギー価格の高騰が電力料金に転嫁され始めた。

 こうした現実に直面し、電力安定供給、エネルギー安全保障が日本の重要課題として再認識されるようになった。8月には、岸田文雄首相より「再稼働に向けた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」など今後の政治判断を必要とする項目が明示された。これを受け、資源エネルギー庁の各審議会は、運転期間延長、次世代革新炉に関わる具体的施策の議論を行っている。

 運転期間延長に関しては、①:現行の原子炉等規制法にある上限規定(運転開始から40年、最大60年)を維持する、独立性を有する原子力規制委員会が安全性を確認した場合に限り、②:利用政策としては特段の上限規制を設けない、③:②と同様の条件下で利用政策上も一定の運転期間上限は設けつつ、現行の上限規定に対し追加的に規制対応に伴う運転停止期間等を加算する、という3つの選択肢が政府によって示された。また、革新炉については、現行の軽水炉の改良型も含めた次世代炉の開発ロードマップが示された。東京電力福島第一原発事故以降、政治的にタブーとされてきたリプレース(建て替え)・新増設に、ようやく踏み込んだのである。

 福島第一原発事故以降、24基の廃炉が決まった一方、再稼働を果たした炉は12月1日時点で10基に過ぎない。当初は5カ月程度と語られてきた原子力規制委員会による新規制基準適合審査が、実際は平均5年以上もかかっているからだ。停止による逸失利益は5兆円以上とも試算される。

 また、発電中に二酸化炭素(CO2)を排出しない原発は「電源の脱炭素化に貢献する」としながら、「可能な限り減らす」と位置づけるなど、原発に関わる政策方針が明確でなく矛盾を孕むため、産業界は事業予見性を持てない。事業者は将来への設備・人材投資に踏み切れない状況が長く続いており、このままでは、高い技術自給率と国際競争力を誇ってきた産業界は格納容器などのサプライチェーンを維持できず、中国炉、ロシア炉のグローバル市場席巻を横目に見るだけとなる。


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