多方面で強まる
エネルギー政策の重要性
天然ガスに話を戻そう。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、世界のLNG需要と供給能力の差は25年に大きく拡大する。LNGの供給余力が減少し、争奪戦の様相を呈することになるのだ。
これにはLNG価格が長年低位安定していたことから、プロジェクト開発投資が手控えられていたことが影響している。スポット市場で十分安価に調達できるため、日本勢は19年度以後、長期契約をほとんど締結してこなかった。次の大型商戦は25年以降と見られるが、その時点の取引条件に影響を与える要因の一つが、原発再稼働の見通しである。
予定通りに進めば、その分LNGの調達量を減少させることになるが、原発に否定的な政権が誕生するなどして政策が逆行すれば、LNGが余計に必要になってくる。
こうした内政リスクはLNG調達の際の価格交渉力にもマイナスの影響を与えることは間違いない。資源・電源開発は長期にわたる特質があり、エネルギー政策の安定こそ、事業予見性を確保することにつながるのである。
次世代革新炉の開発・新増設についても、政策の影響は大きい。革新炉第1号として三菱重工業が10月に設計コンセプトを発表した軽水炉は、30年代半ばに実用化される見込みだ。技術革新によって得られる安全メカニズムを組み込んだ新型炉は立地地域側の恩恵も少なくなく、安全性に関する説明責任と理解醸成は政府の役割でもある。
また、初期投資回収を円滑にする会計制度、新規制基準適応審査の標準化・効率化などについて具体的施策が整備されなければ、既設炉の再稼働に追われる原発事業者は、新型炉建設投資に踏み切ることはできない。
海外市場に目を転じれば、小型炉は、太陽光や風力などの変動電源の負荷調整に利用するだけでなく、大量の電力を消費するデータセンターに併設する利用も計画されている。これまで原子炉の海外プロジェクトで成果を上げることのなかった日本勢だが、海外市場も視野に入れた展開を政府が支援し、原子力の産業競争力を維持することも喫緊の課題である。
便利で安価な暮らしを求め続ける日本――。これは農業も例外ではない。大量生産・大量消費モデルに支えられ、食べ物はまるで工業製品と化した。このままでは食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人を〝食べ支える〟ことは困難になる。しかし、農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人は、企業は、確かに存在する。日本の農業をさらに発展させるためには、農業の「多様性」が必要だ。