原発運転延長措置も
その効果はわずか
では、今回の運転期間延長措置は、電力供給力にどの程度貢献するのか。本稿では、前述の①の場合、また③の場合における設備容量を試算した。21年10月に策定された日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示す「第6次エネルギー基本計画」では、原発は30年の電源構成比において20~22%を維持することが示されている。30年の総電力需要は基本計画策定時に示された9340億キロワット時、50年のそれは「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で示された1・5兆キロワット時と想定し、稼働率は福島第一原発事故前と同様の70%とした。
この仮定において原発の電源構成比率22%を達成するために必要な設備容量は、30年において35ギガワット、50年において50ギガワットである。
運転期間延長に関して現行の上限規定を維持する①の場合、現在停止中の原子炉が再稼働し、運転期間が最大の60年として試算しても、30年には10基相当(約10ギガワット)、50年には36基相当(約36ギガワット)が不足してしまう。
次に、運転期間の上限を設けつつも停止期間を加算する③の場合である。規制基準下、設置変更許可が降りた7基について25年1月に運転再開、設置変更許可申請中の8基について30年1月に運転再開すると仮定し、それぞれの炉について、新規制基準が施行された13年8月以降の停止期間を運転延長期間に追加した。この場合でも30年の不足分は同じく10基相当であり、50年には多少改善するものの依然として31基相当の設備容量は不足したままだ。これらの試算には現在建設中の3基は含まれていないが、これらの稼働が50年に間に合ったとしても、設備容量が急増することは期待できない。
それでも政府は先述した③の方針を固め、23年の通常国会に原子炉等規制法と電気事業法の改正案を提出する。もちろん、運転期間延長自体は安定供給確保のための貴重な一歩だ。しかし、運転停止期間について時計を止めることができても、30年の電源構成は机上の空論に終わってしまうのである。
経年劣化の評価・管理について科学的知見も蓄積していくことから、運転期間延長のあり方について、適宜議論と見直しが必要であろう。そもそも、古くから原発を利用してきた英国やフランスでは、安全確保義務を満たしていれば運転期間に縛りはない。米国でも運転延長の回数に制限はなく、すでに6基が80年運転を認められている。