2024年4月20日(土)

21世紀の安全保障論

2022年12月29日

可能性のある3つの攻撃手段

 これらの攻撃で使用された自爆ドローンは諸説紛々だが、おそらく3つの手段のいずれか、もしくは併用された可能性が現時点では濃厚だ。

 最有力は1979年に開発された無人偵察機Tu141だ。この機体はいわゆるドローンのようにコンピューターによる自律飛行も映像の電送も出来ないタイプでラジコンに近い。興味深いのはウクライナ軍がこの機体に最新式のGPS誘導装置と弾頭等を積載し、ラジコンからIoT製品たるドローンに改造したとされていることだ。

 しかも撃墜したロシア軍機の敵味方識別装置を搭載していた可能性が指摘されている。確かにこれならばロシア軍機として誤認され迎撃もされないだろう。

 またニューヨーク・タイムズにウクライナ高官が語ったところによれば、基地の近くまで進出したウクライナ軍特殊部隊がドローンを標的に誘導する手助けをしたという。これは事実の可能性が高い。

 というのは、単なる巡航ミサイルであれば座標に向かって飛ばすことしかできない。事前の衛星画像で確認した場所への攻撃となるので、目標の航空機が移動なり出撃していれば意味がない。しかし基地の近くに潜入した特殊部隊員が操作範囲内に近づいたドローンの操作をしたとなれば、亜音速で飛ぶドローン視点のリアルタイムの画像を見ながら命中させようとすることはできる。

 第二の説は、特殊部隊が近くまで侵入して比較的小型のドローンを爆撃なり突入させたというものだ。実際、それらしき例はある。以下は11月にロシア国内に170キロメートル奥地の石油タンクを回転翼型と思われるドローンが爆撃した動画だが、当然だがこのタイプが170キロメートルも飛行できるとは思えない。

 ドローンの取り回しの良さとどこからでも発進できる展開力を活かして特殊部隊が持ち込んだとみるべきだ。実際、ウクライナ軍の特殊部隊は米軍から供与された自爆ドローンのスイッチブレードを使いロシアのFSBが国境線に設置した監視塔―ロシア領内に侵入する障害となる―を破壊しており、ロシア国内への侵入を繰り返している蓋然性が高い。

 第三は、ウクライナ側が攻撃前に、飛行距離1000キロメートル、弾頭75キログラムの新しい長距離自爆ドローンを準備していると主張していた。この自爆ドローンが投入されたという説もあるが、この説をとる論者は少なく、筆者も12月初旬の段階では開発中で可能性は低いと思われる。

 いずれにせよウクライナ側がロシア領内奥深くにドローンを侵入させ、物理的には僅かだが、心理的には大打撃を与えたことは間違いのない事実だ。

 実際、ウクライナの国家安全保障・国防会議長官は「エンゲルス空軍基地での爆発後、ロシアは戦略爆撃機を極東の沿海地方に避難させた」としており、本当ならばロシア軍の衝撃が伺える。少なくとも自爆ドローンは、ロシアの核抑止を担う戦略爆撃機部隊を戦線から遠く撤退させる効果があったことになる。

巡航ミサイル以上に迎撃が困難なドローン攻撃

 今回の攻撃が意味するのは何か。それは巡航ミサイル以上にドローンを活用した攻撃の有効性が高いということだ。

 ドローンは、在来型の兵器よりも展開コスト、人的コスト、生産コスト、改良コストが安価な為に、有人兵器では不可能な長距離及び長時間かつハイリスクな戦術を幾度も可能にする。つまりドローンは神出鬼没で思わぬ地点から出撃したり、長時間〝滞空〟したり、迂回したりすることで敵の隙を突いたりすることが可能だ。

 多少徘徊できる程度しかできず、非常に高額な巡航ミサイルでもここまでの戦い方は難しい。

 そもそもドローンは撃墜されても惜しくはないために敵の意表を突く戦術が可能という訳だ。現代戦において人間が最大のコストであることを考えれば、この意義は大きい。

 しかも撃墜されてもオペレーターやデータが残っていれば、更なる高練度で再出撃も可能だ。有人機が撃墜されればされるほど、練度が低下していくのとは大違いだ。


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