2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年1月9日

Andrii Marushchynets/Gettyimages

 ウォールストリート・ジャーナル紙コラムニストのウォルター・ラッセル・ミードが12月12日付け同紙に‘It’s Time to Prepare for Ukrainian Peace’と題する論説を書き「今やウクライナの平和に準備する時である。米国は休戦よりもっと永続性のある取り決めを考えるべきである」と論じている。要旨は次の通りである。

 平和の時に戦争に備えなければならないと同時に、逆に、戦争の時には平和に備えなければならないというのも真実である。

 我々が引き続きウクライナを助けるにしても、米国人はどんな平和を望むのかについて考え始めなければならない。しかし、平和の構築は難しい。

 米国は和平からいくつかのことを欲している。

 第1に、戦争は早く終わるべきである。

 第2に、戦争は本当の平和で終わるべきである。戦闘はいつでも爆発しうる「凍結された紛争」に落ち着くべきではない。我々は欧州の半分が永久に戦争体制にあることは望まない。我々はこの戦争が武装休戦ではなく、条約で終わることを望む。

 第3に、この戦争はロシアの侵略が罰せられずに済まないことを明確にするような形で終わるべきである。ロシアの将来の指導者と他地域での潜在的侵略者は、征服戦争は高くつくことを理解する必要がある。

 第4に、この戦争の終わりは次の戦争の舞台作りになってはいけない。冷戦後、北大西洋条約機構(NATO)の拡大を部分的にとどめたことは間違いであった。ジョージア、モルドバ、ウクライナ、ベラルーシをNATOに入れられず、ロシアはこれらの国すべてを侵略または転覆させた。この戦争は明確な安全保障枠組みで終わらせる必要がある。

 最後に、米国はロシア連邦の解体でこの戦争が終わることを欲していない。ロシアでの権力の崩壊が混沌とコーカサスでの戦争を招き寄せるのは最悪のシナリオだ。これは悪夢で、核兵器と核物資を拡散させ、中国に力を与える。安定したロシアは、ウクライナから太平洋、北極海から黒海までの無政府状態のゾーンよりもずっと望ましい。

 これらの目的のどれも達成することは簡単ではない。しかし米国と西側の安全保障と援助の約束は、不可避的に不完全な平和条約をウクライナ人が受け入れることを助けるだろう。

 バイデン政権は次の段階に備える必要がある。第2次大戦中、フランクリン・ルーズベルト政権は戦後世界の準備をするために多くの時間を使った。バイデン政権も、休戦より永続性のある何かがこの紛争から生まれ出てくるのか、先のことを考えなければならない。

*   *   *

 この論説はよく考えられた良い論説である。色々と考える材料を提供している。ウクライナ戦争の戦後の平和の形を今から考えておくべしというのはその通りである。

 ウクライナ戦争を休戦協定で終わらせるのではなく、もっと永続性のある取り決め、できれば平和条約で終わらせるべしというのが主たる主張である。米側の希望としてはよくわかる。しかし、この戦争が平和条約で終わることは考え難いように思われる。クリミアについてゼレンスキーは奪還すると言っており、他方でロシアがクリミアを手放すことは考え難いからである。

 休戦協定で戦闘を止め、クリミアの領有問題は今後の外交交渉に委ねることが、今望みうる最善ではないかと考えられる。日露間には平和条約は今なお存在しないが、北方領土問題が解決しないので平和条約が結べないのである。クリミア問題はウクライナ・ロシア平和条約締結への障害として残るだろう。


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