配車アプリのディディは電話配車機能を追加した。配車アプリでは現在地と目的地を入力する必要があるが、これがなかなか難しい。そこで老人がコールセンターに電話をかけるとかわりに車を手配してくれるという。電話でタクシーを呼ぶ配車センターからアプリに進化したはずが、またコールセンターに戻っているという、先進的なのか違うのかさっぱりよくわからない仕組みだが、老人にとって便利なことには違いない。
「若者だけを雇いたい」
高齢者が働けない中国企業
テックを使って新たな高齢者支援の仕組みを作る、デジタル化から取り残された老人にも便利なサービスを提供する、この2つの方針で中国は積極的な取り組みを続けているが、一方で目立った進展が見えない分野もある。それが「高齢者の労働」だ。
日本を訪れた中国人の多くは、高齢者が働く姿に驚く。中国は男性60歳、女性50~55歳が法定定年年齢である。すぱっと仕事をやめて後は孫の面倒を見て好きなことを暮らす人は珍しくないだけに、豊かなはずの日本で白髪の老人がコンビニでレジ打ちしているなんて!とびっくりするわけだ。
中国も今後は高齢化の進展に伴い、老人が働く社会に変わる必要がある。現状では年金がもたない上に、人口減が続く中で高齢者も働かないと経済が維持できないからだ。それでも、中国国民の強い反発で定年年齢引き上げは延期されてきたが、習近平政権もついに、この評判の悪い政策を断行しようとしている。
ただ、社会の側はついていっていない。一般市民の抵抗だけではなく、企業側も「ガリガリ働く若者だけ雇いたい、老人と言わず中高年もできれば会社からいなくなってほしい」と考えているからだ。
実際、リサーチしていても、「うちは若い会社です!」と売り文句にしている企業の多さには驚かされる。多少の無理難題は体力、根性、長時間労働でカバーという中国企業あるあるのスタイルを実現するためには若さが何よりの武器なのだろう。
とはいえ、会社単位で見ればそれでいいのかもしれないが、社会全体では中高年の雇用不安は問題だ。
「青春ボーナスの略奪狙いが社会不安を引き起こす」
これは21年2月24日に中国国有メディアの新華毎日電訊が掲載した記事のタイトルだ。企業が若い働き手を求めるあまり、35歳以上の求人が極端に少ないこと、「全従業員が1990年代以降生まれ」を目指す企業まであるという。その結果、中高年の暮らしが不安定化し社会不安が広がっていると批判している。
35歳危機が唱えられている状況で、高齢者の雇用など夢のまた夢だ。前述の「第14期5カ年計画国家老齢事業発展・養老サービス体系計画」には高齢者の労働参加促進も盛り込まれている。高齢者人材データベースの設立、技能研修の提供、会社と労働者が合意した場合の定年延長などの施策が並ぶが、そもそもの問題である「若い働き手しか要らない」という社会の風潮を変える手立ては見えていない。