政府の支出が、人々が本当に求めるのものではなく、賄賂次第になれば、政府の効率が低下する。政府だけでなく、社会のあらゆる面で、すべてのことが賄賂次第となる。これでは、能力のある人はやる気を失う。あるいは、能力のある人が賄賂を取る側になろうとするかもしれない。経済は発展しない。
民主主義は腐敗を抑制する
図3は、民主主義と腐敗の関係を示したものである。図から明らかなように、民主主義の度合いが高いほど腐敗は減る。民主主義の国であれば、自由な報道機関や野党が腐敗を追求する。腐敗は抑えられるのだ。
この点で、スキャンダル報道は重要である。スキャンダル報道をバカにする人が多いのだが、政策の議論をしてもあまり深まることは期待できない。
10年前は、高所得者に児童手当を払うなと叫んでいた人が、いや払うべきだと言い出している(筆者の考えは、「児童手当の所得制限撤廃とN分N乗政策はなぜ異次元か」にある)。政策が正しいかどうかは、そう簡単には分からないが、腐敗を正さなければならないのは明らかで、途中で意見が変わることはない。
世界最古の民主主義国英国で、スキャンダル報道が盛んである。筆者は、スキャンダル報道こそが英国民主主義の根幹の一つであると信じている。
図3をよく見ると、シンガポール、ブータン、香港、カタール、UAEのように、民主主義ではないが腐敗の少ない国もある。カタール、UAEは産油国の中でも豊かな国である。腐敗が相対的に少ないことが豊かさとも関係しているのだろう。香港は、豊かで自由な国がいきなり自由ではなくなってしまったという事例である。その余沢が残っているのかもしれない。
ブータンの1人当たりGDPは1.1万ドルで、周辺国のインド、ネパール、バングラデシュより豊かである。中国の平均の1.8万ドルよりは貧しいが、その辺境地域よりは豊かだろう。海のない国は経済発展に不利だが、腐敗の少なさゆえに周辺国よりも豊かになっているのかもしれない。民主主義の度合いは低いが、国王が自ら独裁権を捨てて立憲君主制の国になることを選んだので、いずれ民主主義指数も上がっていくだろう。
自由と民主主義の国となるのが最大の答え
自由と民主主義は豊かさをもたらす。その因果関係は、自由と民主主義が腐敗を抑え、それが人々の活動を活性化するからである。確かに、シンガポールは、あまり民主主義的ではないが、腐敗が少なく、日本よりもはるかに豊かである。しかし、民主主義でなくて腐敗していない国は例外である。
例外的な国になるよりも、普通の国になることの方が簡単である。戦争が終われば、ウクライナは自由と民主主義の国となって、自由で豊かで幸福になる。それがロシアの侵略と、無益に死んでいったロシアの若者に対する最大の答えとなる。
なぜ戦わなければならなかったかへの答えであり、無益に死んだロシアの若者に、自由と豊かさと幸福の別の途があると示すことになるからだ。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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