ただし、この結論には不確実性がある。例えば筆者が代表を務める「食の信頼向上をめざす会」の調査では、コロナに感染した人の半分が、感染したときに「マスクをしていた」と答え、残りの半分は「分からない」と答えている 。いつ、どこで感染したのか知ることは難しいので、感染した時のマスクの有無を答えることは難しい。
「マスクを着用していた人」の中に、食事などのために一時的にマスクを外した時に感染した人も含まれるだろう。その結果、マスクの効果は過小評価されることにもなる。従ってマスクの真の効果は「効果がない」と「わずかな効果がある」の範囲内と考えられる。
なぜマスクに効果がないのか?
国立感染症研究所はコロナの感染経路を、①空中に浮遊するウイルスを含むエアロゾルを吸い込むエアロゾル感染(空気感染)、②ウイルスを含む飛沫が口、鼻、目に付着する飛沫感染、③ウイルスが付着した手指で口、鼻、目を触ることによる接触感染としている 。
マスクは飛沫感染の対策であり、すき間がないように正しく着用していれば飛沫を75%止めることができる。しかしエアロゾルを止めることはできない。科学的調査によりマスクの効果がなかったということは、感染の主な原因はエアロゾルということになる。
総説論文は季節性インフルエンザとコロナの両方の症例を分析したものである。コロナについては空気感染が主流であることはすでに明らかにされている。他方、季節性インフルエンザは飛沫感染と接触感染が主流と言われている。にもかかわらずマスクが無効だった理由は2つ考えられる。
第一は、マスクを24時間着用することは困難であり、はずす機会が多いこと、そしてマスクの正しい着用も困難であり、すき間がある着用が多いことである。その結果、実際のマスクの感染防止の効果は75%よりずっと低いと考えられる。
第二は、季節性インフルエンザもまた空気感染するという事実である 。この2つの原因で、季節性インフルエンザについてもマスクの感染防止効果が見られなかったのだろう。
マスクを止められるか
マスクの解禁は、1月20日に岸田文雄首相が新型コロナの位置づけを感染症法の2類相当から季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行することを指示し、「ウィズコロナの取り組みをさらに進め、家庭・学校・職場や地域といったあらゆる場面で日常を取り戻すことができるよう着実に歩みを進めていく」と述べたことに始まる。こうして、20年8月の退任記者会見で安倍元首相が表明した5類への見直しが、23年5月にやっと実現することになった。
5類への移行により、これまでは指定医療機関でしか受診できなかったコロナ感染者がどの病院でも受診できるようになる。また現在は無料の医療費は期限を区切って公費負担を継続し、ワクチンも引き続き無料にすることなどが決められた。
そのような規制緩和の一環として、3月13日以降は原則としてマスクの着用は個人の判断にゆだねられることになった。しかし、そう言われて直ちに判断できる人は多くはないだろう。
まず考えるのは感染のリスクだ。残念ながらマスクには感染防止効果はないので、はずしても感染のリスクは変わらない。空気感染を防ぐ手段は換気であり、空気の流れを止めるアクリル板やビニールシートはリスクを増やすのだが、そのような事実は周知されていない。
次は同調圧力である。だれもが「マスクは自分を守り、感染弱者を守る」と信じている。そしてマスクしない人は非社会的な人物と思う。そんな状況でマスクを外すには相当の覚悟が必要になる。
3番目は責任問題である。学校や施設でマスクの義務化を解除して、もし感染が発生したら、責任問題になるかもしれないという恐れである。マスクは感染防止の役に立たないと言っても、メディアも社会も「言い訳」と批判するだろう。