2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年3月23日

 3月6日からのIAEA理事会を前にイランを訪問したグロッシ事務局長は、6日の記者会見で、イランとの協議は継続中としつつも、査察官はこの高度の濃縮が「単発の出来事なのか、あるいは目的があっての努力なのか」を見出すことが出来るであろうと述べ、濃縮過程における「意図せざる変動」とするイランの説明を必ずしも排除していない。

 この問題で、イランに対する理事会の譴責決議の可能性が取沙汰されているようでもあるが、イランとの協議が継続中にその種の決議が採択されることにはならないであろう。

 以上の問題は別として、IAEA報告はイランの核活動の危険な進展を報告している。イランは60%の濃縮ウランの備蓄の半分を使うことにより12日でブレークアウト、即ち、核兵器1個分の核燃料を製造し得ること、更には残り半分の60%の濃縮ウランとほぼ20%の濃縮ウランを使うことによって更に4個分の核燃料を1ヶ月のうちに製造し得ることが報告されている。

 グロッシはイラン訪問により、イランの核活動に対するIAEAの査察と監視の強化で合意したとしており、核施設へのカメラその他の監視器具の再設置やウラン粒子の痕跡が発見された未申告の3箇所の核施設へのIAEAのアクセスが合意された模様であるが、イランがこれらの約束をいかに迅速に実行するかの問題がある。

外交的解決には核合意の復活しか道はないが……

 いずれにせよ、イランが核兵器取得の能力に一歩一歩接近する状況をIAEAの査察と監視だけで阻止し得る訳ではない。外交で解決すると言うのなら、核合意の復活しか道はない。

 昨年春以降は交渉が最終局面にあることが言われながら、結局、米国とイランの直接交渉に至ることもなく、頓挫した模様である。その理由はIAEAに未申告の3箇所の核施設の調査を止めさせること、米国による革命防衛隊の外国テロ組織の指定を解除すること、などのイランの要求を巡って折り合いがつかなかったことにあるらしいが、経緯は明らかでない。

 イランがウクライナの戦争でロシアに協力する状況では、米国が柔軟に動く余地はない。遺憾ながら、核合意復活の時期を逃したと思われる。イランは核施設に対する武力攻撃の誘発を避けることに腐心する一方、その核の能力の進化を引き続き指向することとなろう。

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