ロシアの選択:民主化するか中国の属国になるか?
プーチン政権後のロシアは民主化する……。そういう議論は数多くある。不肖筆者のその一人だ(「ロシアが民主化したら困る中国 習近平訪露で結束演出」)。
ロシアの民主化運動の先鋭的な活動家であるガリル・カスパロフ氏とミハイル・ホドルコフスキー氏は今年2月のフォーリンアフェアーズ誌で「ロシアは限定的な中央権力と強力な地方自治の二本立てで議会制連邦共和国になる」と論じた。そして、彼らもロシアが民主化に失敗すると中国の属国になると論じた(”Don’t Fear Putin’s Demise Victory for Ukraine, Democracy for Russia”Foreign Affairs、January 20, 2023)。CIA長官と同じ論法だ。
当然のことながら、中国政府中央には世界情報の巨大な分析機関がある。中国トップの政策当局はこの手の世界の議論、例えばウクライナ戦争後にロシアはどうなるかについて膨大な情報を集めて分析し、政策を立案している。だから「プーチン後のロシアは混乱の末、中国の属国になる」という国際論壇での議論を知らないはずがない。
ここで想起すべきことは中国が米欧中心の民主主義的世界秩序(グローバルガバナンス)を打倒しようとしていることである。習近平総書記は「百年に一度の大変局」と称して決意表明をしている。そのことは西側、そして日本も最も深刻に受け止めるべきだ(「習近平が目指す国際秩序」大嶋英一)。
今年3月、中国の仲介でイランとサウジアラビアが電撃的に関係修復したのはその一例だ。今後さらに盛大に進めるだろう。グローバルサウスに食い込み、紛争に介入し、国際法の変更にまで手を伸ばし、民主主義世界、即ちG7の行動を抑制し無力化しようとしている。
中国のそのような基本姿勢からすると、CIA長官に言われるまでも無く中国は専制ロシアの維持継続を目指しているだろう。プーチン政権が退陣しても専制的なロシアを維持しようと工作するだろう。
仮にモスクワが弱体化し、ヨーロッパ・ロシアだけが民主化した場合でも、ユーラシア東部では専制体制を実現しようとするだろう。ウラジオストク等への歴史的な領土的遺恨も挽回しようとするかもしれない。
しかもユーラシアは中国の裏庭だ。イランやサウジアラビアとは訳が違う。国の威信をかけて行動するだろう。
ユーラシア東部を勢力下に置けばアジア太平洋の平和と安定に大きな衝撃が走る。台湾問題にも影響してくる。
日本は防衛力増強に更に一層邁進する必要が出てくるかもしれない。その結果、国論が割れて更に中国を利する結果になる。
要するにG7諸国がこれから直面する挑戦はユーラシアを巡る自由主義対専制主義の戦いなのだ。これは相当厳しい対決になる。「百年に一度の大変局」を思い出すべきだ。
これが広島でのサミットで7カ国の首脳らの肩越しにある最も深刻な問題だ。 日本とG7諸国はもちろん、世界全体の平和にとって非常に重要な地政学上の問題がそこにある。